サービス業界やコールセンターを持つ企業の方ならきっと一度は聞いたことがあるであろう「ザッポスの奇跡」や「ザッポス伝説」という言葉。「コールセンターがすごい」「企業文化がすごい」などの概要はご存知かもしれませんが、実際のザッポスに関する情報はほとんどが英語で、日本語の記事は個人的なブログや数年前の情報など、少ないのが現状です。
そこで本記事では、様々な英語の記事から、改めてザッポスがなぜすごいのか、特にそのコールセンターについて、その秘密に迫ろうと思います。
Zappos(ザッポス)とは?
ザッポスとは、アメリカのラスベガスに拠点を置く、靴を中心に服や服飾雑貨などを販売する通販会社です。創業は1999年。ニック・スウィンマン(Nick Swinmurn)によって、ザッポスの前身となる靴の通販サイト、「シューサイトドットコム(ShoeSite.com)」として開業しました。すぐに、「Zappos」という名のサイトに変更(スペイン語で靴を意味する「Zapatos」が由来)し、のちにCEOとなるトニー・シェイ(Tony Hsier)が経営するベンチャーキャピタル・ベンチャーフロッグ(Venture Frogs)社から出資を受け、アメリカを中心に展開していきます。
2002年にトニーがCEOに就任して以降、それまでの靴の種類や在庫の多さに着目したビジネスから、カスタマーサービス主導のビジネスへと変化しました。そこからザッポスは急成長を遂げていくこととなります。最初の10年で年間10億ドルの売り上げを達成し、今では年間20億ドルの売り上げを続けています。リピート率は全顧客の75%という驚愕の数値を叩き出しており、この数値だけでもザッポスの凄さをお分かりいただけるでしょう。
さらにザッポスの名を世に轟かせることとなったのが、2009年のアマゾンによる買収。その金額は12億ドルというとんでもない額でした。実は、2005年にもアマゾンからの買収の話はあったのですが、ザッポスは一度断っています。「アマゾンがどうしても手に入れたかった企業」として、ザッポスは一躍有名になりました。アマゾン傘下となった現在でもなお、独自の経営を許されています。
では、世界のアマゾンをそこまで魅了したザッポスの魅力とはいったい何なのでしょうか。
ザッポスの代名詞 コールセンターを中心とするカスタマーサービス
ザッポスを語る上で明かせないのが、コールセンタースタッフによる、驚きのサービスです。彼らが自分たちのことを「たまたま靴を売ることになったサービス企業」と言っているように、ザッポスの中心にあるのは「サービス」であり、販売ではありません。
中でも、サービスの中心となっているのが、コールセンターです。多くのアメリカの企業がコールセンターをインドなどの海外におくことが多い中で、ザッポスのコールセンターは本社のあるラスベガスにあります。もともと本社をサンフランシスコに置いていましたが、コンタクトセンターに適した人材を確保するためにラスベガスに移転しました。
ボットなどによる機械的な応答に顧客対応を移管していく企業が多い中、ザッポスはコールセンターに力を入れています。そのスタッフの対応は「神対応」として度々話題となっています。例えば、運送時の事故で商品が濡れてしまった客のために、スタッフ自ら商品をすぐに届けたり、靴を送る相手が亡くなってしまったから返品をしたいという客に弔意の花束を届けたりなど、その神対応の逸話はいくらでもあります。
ザッポスのコールセンタースタッフの目標は、売り上げをつくることよりも客に感動(WOW!)を届けること。そのため、ザッポスのコールセンターのKPIは、よくある応答率や平均処理時間(AHT)ではなく、「どれだけ顧客によりそうことができたか」となっています。
どんなサービスをするかもCustomer Loyalty Team(カスタマーロイヤルティチーム)と呼ばれるコールセンタースタッフに一任されています。スタッフの一存で、プレゼントを贈ったり、ポストカードを送ったりできるのです。ザッポスにはマニュアルやトークスクリプトはなく、対応は各スタッフに一任されています。
以下にZapposが顧客に約束しているサービスの一部をご紹介しましょう。
- ザッポスのホームページのどの場所にも電話番号がのせてある。
- 通話時間は無制限で、現時点(2019年12月17日)の最長記録は10時間51分!
- マニュアル、トークスクリプトはなし
- 24時間対応
- 365日間返品可能
- 送料無料、返品無料
なぜザッポスはコールセンターを重視するのか
ネットを通じて、家に居ながら誰とも会話をせずともモノを買えるこの時代に、なぜザッポスは電話という手段を重視するのでしょうか。
それは、ザッポスが顧客満足度(カスタマーサクセス)や顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)こそが何よりの自分たちの宣伝になると考えているからです。事実、ザッポスの新規顧客のうち43%が人づての口コミでザッポスのことを知っています。CEOのトニーは「カスタマーエクスペリエンスにお金を割けば、顧客がマーケティングをしてくれる」と語っています。
ここで注目したいデータがあります。アメリカで80年顧客体験のコンサルタントを営んでいるWalker社が、「2020年までに顧客体験は価格や商品に代わってブランドの差別化を図る重要な要素となるだろう」というレポートを出しました。また、同調査によると、86%もの購入者が、「よりよい顧客体験のためにはお金を払う」と回答したそうです。
データ参考元:CUSTOMERS 2020: A PROGRESS REPORT
ザッポスの商品は決して他のサイトに比べて価格面で優位をとっているわけではありません。それでも人々はザッポスを選ぶのです。そこにはもちろん75%が既存の客という事実もありますが、何よりも、顧客との関係を築くコールセンタースタッフの対応が大きく貢献していることは言うまでもないでしょう。実際の人と人との関わりなしには顧客に「WOW」を届けることはできないと考えているのです。
ツイッターやインスタグラムなど、だれでも瞬時に情報発信ができる今だからこそ、個人が受けた感動体験は瞬く間に人々に広がります。顧客体験、顧客満足度の創造が、ザッポスのブランディングを成功させ、重要な広告ツールとなっているのです。
最後に
本記事では、ザッポスの概要とコールセンターによる顧客体験の創造、そしてそれに伴う広告効果について海外の記事からまとめました。中でも、「カスタマーエクスペリエンスが価格や商品に代わる重要な差別化の要素となるだろう」という調査結果は非常に興味深いですね。ネットで自由にモノを買える時代だからこそ生きてくるコールセンターの役割。ザッポスはその可能性にいち早く着目したからこそ成功を収めているのでしょう。
続きは、「海外事例Case 2」をご覧ください。
→ 【海外事例Case 2】感動の顧客体験を生み出すザッポスのコールセンター、神対応を可能にする企業文化とは