【2024年最新】コンタクトセンターでの生成AI活用方法と具体的な事例の紹介
2024/09/25
- システム導入
- 生産性向上
コンタクトセンター業界に限らず、2023年のビジネストレンドは「生成AI」です。チャットボットや音声認識を中心に、AI技術はコンタクトセンターに浸透しつつあります。「生成AI」の登場はその流れをさらに加速させています。
本記事では、生成AIがコンタクトセンター領域でどのように活用されているか、その具体的な事例と効果に焦点を当てています。また、生成AIの現在の限界と将来の展望についても触れ、コールセンター業界におけるその重要性と可能性を探ります。
生成AIとは何か
前提を揃えるため、改めて「生成AI」とは何かを確認しましょう。
上記の文章は生成AIを使った代表的なサービスである「ChatGPT」を利用していますが、驚くべき精度で文章が生成されていることがわかります。
生成AIができること
生成AIでできることは日々発見されており、SNSなどでは最新の事例がアップデートされています。2023年11月現在、生成AIでできることの一部を抜粋し一覧でまとめると以下になります。
本記事は、生成AIの中でも特にLLM(大規模言語モデル)と呼ばれる文章生成ができるモデルに注目をします。LLMは最も開発が熾烈な分野であり、コンタクトセンターにも影響がある生成AIです。
コンタクトセンターでの生成AI活用
人間と同等の言語能力を持つAIが実現しつつある今、ビジネスシーンでの活用領域として期待されているのがコンタクトセンターでの活用です。多くのシステムベンダーが生成AIを組み込んだ製品を開発しており、実際の導入も進んでいます。
「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2023in東京」に見るトレンド
毎年6月に大阪で、11月に東京で行われるコンタクトセンター業界における一大イベント「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス」でも、「生成AI」はメガトレンドとして取り扱われています。
「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2023in東京」では、講演や各ブースにおいて、すでに生成AIを活用したソリューションやその事例なども紹介されており、すでに生成AIが実証実験段階から実践の場で効果を出すレベルにまで到達していることが明らかになりました。
昨年の同イベントのレポート(【2022年】コールセンター/CRM デモ&コンファレンス イベントレポート)の状況と比較しても、この1年で一気に生成AIの技術が進化し、導入が進んだことがわかります。
生成AIのカオスマップも拡大
事実、生成AIを活用したソリューションも増えてきています。
株式会社アイスマイリーが2023年8月に公開したカオスマップによると、コールセンター向けのAI製品が102個掲載されていますが、2020年に同社が発表したカオスマップから40製品以上の製品が追加されています。そのうち、生成AI(特にChatGPT)との連携を特徴としている製品も出てきており、ソリューションの開発競争が激化しています。
現場の課題認識
現場では生成AIをどのように捉えているのでしょうか。
楽天コミュニケーションズが10月3日に発表した調査によると、コンタクトセンターの責任者とスーパーバイザーの9割が生成AIの活用に前向きであることがわかりました。
一方で、生成AIに対する懸念点としては、誤回答のリスク管理、トレーニングデータの収集、顧客情報のセキュリティなどが挙げられています。
コンタクトセンターにおける生成AIの活用領域
それでは、コンタクトセンターで生成AIの活用が期待される領域について整理してみましょう。
現在コンタクトセンターでの生成AI適用で最も活用が拡がっているのは、コンテンツ作成やメール本文作成など、「バックオフィスでの利用」です。この領域はまさに文章を生成するというLLMの得意とする領域です。
次に、対話内容の要約や社内ナレッジの検索など、「オペレーターの支援」にも活用が進んできています。これは音声認識ソリューションとの相性が良く、従来音声認識ソリューションの課題だった部分を補強することができます。
最後に、生成AIがチャットボットやボイスボットを通じて、直接顧客に回答をすることが期待されている「フロント」業務での活用です。フロントでの活用は、チャットボットで一部導入が進んでいるものの、まだ実践的なコンタクトセンターでの活用例は少なく、全体的に実験段階にあると言えます。
活用が進んでいるタスクのポイントは、人間のオペレーターやSVと協業することが前提となっている点です。これは前述した生成AIの懸念でも表れている通り、誤回答のリスクが関係しています。フロントへの活用が広がるかについては後ほど考察していきたいと思います。
コンタクトセンターでの生成AI導入事例
実際の導入事例の紹介をもとに、現場でどのような効果を発揮しているのかを確認しましょう。
JR西日本カスタマーリレーションズ×ELYZA(適用領域:要約・メール作成)
株式会社JR西日本カスタマーリレーションズでは、外国産AI×国産AI「ELYZA Brain」によるメール内容の要約業務を業界初・最速で導入したことで話題になりました。
JR西日本カスタマーリレーションズでは、1日平均で約6000件ほど問い合わせがあり、それらを各部署に連携するためオペレーターが問い合わせ内容を要約し、メールで連携するという業務がありました。これは業務負荷はもちろん、オペレーターごとに要約の品質にバラツキがあるのが課題でした。
そこで、株式会社ELYZAにAIを使った取り組みができないかを相談。2022年11月に相談を開始し、そこから2ヶ月で実証実験を開始。ELYZAが展開する独自開発のLLM「ELYZA Brain」を活用し、お問合せ内容の要約、メール作成の業務対応時間を約34%(その後最大54%まで向上)削減しています。
プロジェクトの詳細は弊社インタビュー記事も参考ください。
(参照:【取材】株式会社ELYZA│たった2ヶ月で導入成功ーコールセンター×AI社会実装の秘訣とはー)
NEC(適用領域:FAQ作成、社内ナレッジ検索)
NECでは、2023年5月から社内向け生成AIサービスを開始し、サイバーディフェンスとコンタクトセンター業務におけるその活用を発表しました。
サイバーディフェンスでは、攻撃診断と防御のためのAI利用を開始し、脅威インテリジェンスにおいて検知ルール実装処理に生成AIを活用し作業工数を約80%削減しました。
コンタクトセンターでは、生成AIを使い、FAQ作成の工数を75%削減し、回答データの自動生成を行っています。さらに、オペレーターの業務をアシストし、回答時間を35%削減する見込みです。今後は、自動応答の精度向上や、報告業務の自動化を目指しています。
(参照:EnterpriseZine)
トランス・コスモス(適用領域:社内ナレッジ検索)
トランスコスモスでは、オペレーターでは答えられない難しい問い合わせが来た場合に、生成AIを呼び出して質問し、過去の社内ドキュメントなどを参照してオペレーターに回答する取り組みを始めています。
裏側の仕組みはMicrosoft「Azure OpenAI Service」のAPIを利用しています。この取り組みにより、エスカレーションが6割削減できる見込みとなっており、顧客の待ち時間が短縮、エスカレーション部隊の業務負荷軽減が期待されています。トランスコスモスは、このAIの活用をチャットボットサービスの強化や顧客の声の分析・要約にも拡大する計画です。
(参照:日経XTech)
大阪観光局×JTB(適用領域:チャットボット)
大阪観光局では、訪日外国人旅行者への対応強化のために、多言語生成系AIチャットボット「Kotozna laMondo」を2023年10月16日より導入しています。
このチャットボットは20言語以上でリアルタイム情報にも対応し、言語設定の自動切り替え機能を備えています。将来的にはレストラン予約や防災情報などとの連携も予定されており、2025年大阪・関西万博に向けての観光案内所やコールセンターの多言語対応力が向上し、観光情報管理の省力化とともに観光客へのおもてなしの質が高まることが期待されています。
(参照:JTB公式サイト)
その他実証実験が始まっている事例
その他、実証実験的に行われている取組の例は以下です。
生成AIはフロント業務を担えるか
2023年11月時点の事例では主に人間と協業し、補助する役割が生成AIのメインストリームでした。人間の生産性を上げるという方向で活用されつつあります。しかし、コンタクトセンターは長年労働力不足に悩まされており、その根本的な解決策としてオペレーターの労働力を代替してくれるような役割を生成AIに期待する方も多いかと思います。
そこで、最後に生成AIがフロント業務(特にメインのチャネルである電話業務)を担えるのかについて考察したいと思います。主にボイスボットへの適用状況を整理したいと思います。
ボイスボットでの適用は現状難しい
結論として、2023年11月現在ボイスボットに生成AIを利用し、エンドユーザー向けの対応を自動化している事例は見当たりませんでした。一部、社内利用や実験目的で組み込まれていたり、エンターテイメント的に利用されつつはあるものの、やはり応対の品質を保証する必要があるコンタクトセンターの実践的な場では適用がまだ難しいようです。
難しい理由としては主に「1.誤回答リスクのコントロールが難しい」「2.品質が安定しない」「3.UXとして不十分」という3つが挙げられます。
誤回答リスクのコントロールが難しい
まず、大きな問題としてハルシネーションの問題があります。ハルシネーションとは、生成AIの技術的な特性から「事実とは異なる内容」や「文脈と無関係な内容」を生成してしまう問題です。企業がオフィシャルで利用する以上、回答の正確性を担保しなければいけないため、ハルシネーションのリスクがあるうちはコンタクトセンターへの導入は難しいでしょう。
現在、回答生成する際に構築したデータベースのみに参照範囲を限定する方法でハルシネーションの回避は検討されています。しかしながら、膨大なデータベースを作る必要があったり、メンテナンスをする必要があるため、活用は限定的になっています。
品質が安定しない
次に、品質が安定しない問題があります。こちらもコンタクトセンターで活用する以上、回答の品質は常に一定であることが望ましいですが、生成AIはその技術的な特性から入力に応じて無限の可能性があり、返答の出力結果が安定しないという問題があります。
こちらも同じく周辺技術との組み合わせによる解決が模索されています。現状は生成AIで回答するのではなく、あくまで回答は先に準備をしておくことで品質を安定させる試みが行われています。しかし、これも結局のところ回答パターンを膨大に準備する必要があるため、活用は限定的になっています。
UXとして不十分
3つ目の観点はUX(ユーザー体験)の観点です。特に声を使った会話となると、話者交代のタイミングや返答までの間が重要になります。スティヴァースら2009年の論文によると、世界中のどこであっても質問から応答までの時間は0.5秒以内の範囲であり、特に日本人は平均0.07秒で応答していると言われています。
そんな中、現状の生成AIは回答を生成するまでに一定時間がかかります。チャットボットであれば、生成している過程を表示することで体感的な待ち時間を減らすことができますが、ボイスボットの場合、テキストで出力後に音声を生成する必要があるため、待ち時間が発生します。これはオペレーターの対応と比べた時に、圧倒的にUXとしては劣る部分です。
現状は生成中であることがわかるように、音楽を流すなどで対応されていますが、実際の緊迫した問い合わせなどでは上記では対応が難しいと思われます。
注目すべき海外の取り組み事例
先にあげた理由より、日本での生成AI型ボイスボットの活用は現状難しい、あるいは限定的な形になると思いますが、海外では進んだ事例が出てきています。特に、「Air AI」は英語のみの対応ですが、非常に高精度かつ自然な会話を実現しています。
「Air AI」は10〜40分間の電話会話ができ、無限の記憶力を持っていると発表されています。デモ音声を聞く限り、非常に自然なやりとりが行われていることがわかります。当然、デモなので実際には正確性の担保や品質の安定性の問題は起きそうですが、少なくともUX部分はクリアしている印象です。今後、日本でも展開が期待されます。
まとめ
本記事では、生成AIのコンタクトセンターでの現状、活用方法と具体的な例について解説しました。今のところ生成AIの導入はFAQ作成やナレッジ検索など、オペレーターやSV支援の目的で利用されており、すでに大幅な改善に成功している企業も事例として出てきつつあります。
一方で、フロントに生成AIが立って顧客に直接回答するという展開については、一部でその試みは始まっているものの実験段階であるということが分かりました。特にボイスボットへの適用などはまだまだ課題があり、コンタクトセンターの全ての業務をAIが代替するという未来はまだ先のようです。
しかしながら、生成AIについては現在世界中で最も資金と人材が投入されており、日進月歩で進化しています。生成AIの世界では今日の常識が、明日の常識とは限りません。急にフロント業務を担えるようなAIがいつ現れてもおかしくありません。コンタクトセンターに身を置いている以上、このトレンドは無視できないので、技術や事例の動向にこれからも注視しながら、備えておくことが必要です。
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