カスタマーサクセスとは|カスタマーサポートとの違い・基本概念を解説
2024/07/21
- 顧客満足度向上
近年、ビジネス界で注目を集めているカスタマーサクセス。顧客満足度を向上させ、継続的なビジネス成長を目指す企業にとって重要な概念ですが、従来のカスタマーサポートとどのように違うのでしょうか。
この記事では、カスタマーサクセスとカスタマーサポートの基本概念から始め、両者の違いを明らかにし、カスタマーサクセスの実践方法やカスタマーサポートとの連携について詳しく解説します。これからカスタマーサクセスを学ぶ方や、既に取り組んでいる方にも役立つ情報を提供することを目指しています。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスの定義
カスタマーサクセスとは、企業の製品やサービスを通して、顧客の成功に繋がる組織または理念や取り組みのことです。顧客体験と長期的な関係の重要性の高まりに対応して、近年注目されるようになりました。
日本では、カスタマーサクセスを「組織」や「職種」の意味で利用することが多いですが、以下の3つの要素が含まれています。
つまり、カスタマーサクセス部門だけに閉じたものではなく、会社全体で意識すべき「原理原則」であり、目指すべき「理念」でもあります。
カスタマーサクセスの目的
カスタマーサクセスの主な目的は、顧客の成功を支援し、その結果として企業の成長や利益の向上を促すことです。顧客が製品やサービスを効果的に活用できるようになり成功体験を得ることで、長期的な顧客ロイヤリティが形成されます。長期的な顧客ロイヤリティは、安定した継続率だけではなく、商品や製品の追加購入(アップセルやクロスセル)に繋がったり、紹介や口コミによる新規顧客獲得にも繋がります。カスタマーサクセスとは、この顧客ロイヤリティを生み出すための手段になります。
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カスタマーサクセスの歴史と発展
カスタマーサクセスが発展した背景には、SaaS(Software as a Service:「サース」または「サーズ」)が普及したことにあります。SaaSとは、ベンダーが提供するクラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネットを経由してユーザーが利用できるサービスとして提供する方法のことを指します。
このSaaSの登場により、従来のメンテナンス契約からサブスクリプション契約へ移行することとなります。サブスクリプション契約とは、商品やサービスの利用権に対して料金を課す契約方法のことを指します。サブスクリプション契約は従来の契約方法より顧客側が資産を持つわけではないので、顧客は他のサービスに変更することが容易になりました。
そのため、サブスクリプション契約ではチャーン(解約、離脱)が最大の課題となり、チャーンを制御、抑制するために、カスタマーサクセスという概念が生まれました。企業は顧客ロイヤリティの維持や増加がビジネスの成長に大きく寄与することを認識し、次第に、SaaS企業だけでなく、他の業界でもカスタマーサクセスの概念を活用するようになりました。現在では、多くの企業がカスタマーサクセスチームを設立し、顧客との長期的な関係を築くことに注力しています。
まずは米国で発展したカスタマーサクセスですが、日本でも2018年ごろから徐々に広がり始め、サブスクリプション型のサービスの普及(2019年流行語大賞で「サブスク」という言葉がノミネートされました)とともに、広く一般的になりました。
カスタマーサクセスはなぜ重要なのか
カスタマーサクセスへの投資は以下の3つの成果をもたらすと言われています。
この3つの成果は特にSaaS企業の成長には非常に重要な要素です。SaaS企業では重要な経営指標としてARR(年間定期収益)というものがあります。ARRは自社のソフトウェアを新しい顧客に売ることなく、既存顧客の利用価値を高めることで増加させることが可能です。
カスタマーサクセスにより、競合他社との差別化が図られ、市場での競争力が向上します。カスタマーサクセスは企業の持続可能な成長を支える重要な要素であり、今後もその価値がますます高まるでしょう。
カスタマーサポートとは
カスタマーサポートの定義
カスタマーサポートとは、顧客が製品やサービスを利用する際に遭遇する問題や懸念事項に対して、適切な支援や解決策を提供することです。カスタマーサポートは主に次のような形態で提供されます。
形態 |
コンタクトセンター |
オンサイトサポート |
オンラインサポート |
チャネル | 電話、メール、チャットなど | 現地訪問 |
FAQ、動画チュートリアル、チャットボットなど |
主な役割 |
顧客からの問い合わせに対応し、トラブルシューティングや使用方法の説明などを行う |
技術者が顧客のもとを訪問し、現地での機器の設置や修理、メンテナンスなどを行う |
顧客が自ら問題を解決できるような情報を提供する |
カスタマーサポートの目的
カスタマーサポートの主な目的は、顧客が製品やサービスをスムーズに利用できるよう、問題の解決やアドバイスを提供することです。また、単なる問題解決だけでなく、顧客との良好な関係を築くための重要な役割を担っています。
加えて、顧客からのフィードバックを製品開発やサービス改善に活用することで、競争力のある企業を維持し、市場での地位を強化することができます。このように、カスタマーサポートは、顧客と企業との間で信頼関係を構築し、継続的なビジネスの成長に貢献する不可欠な業務といえるでしょう。
カスタマーサポートの限界
しかし、カスタマーサポートにはいくつかの限界があります。まず、カスタマーサポートは問題が発生した後に対応するため、問題発生の予防には繋がりにくいです。また、顧客の問題解決に特化しているため、顧客の長期的な成功やビジネス成長に直接貢献することが難しい場合があります。
これらの限界を克服するために、カスタマーサポートとカスタマーサクセスを統合したアプローチが求められます。カスタマーサポートが問題解決に特化しているのに対し、カスタマーサクセスは顧客の成功を重視し、より長期的な視点でサポートを提供します。これにより、顧客満足度だけでなく、顧客ロイヤリティや拡大も促進されるようになります。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、言葉がよく似ていることや必須スキルが重なることなど混合されがちですが、別の考えであり担当範囲に明確な線を引くことが重要です。相違点をまとめると以下です。
目的とアプローチの違い
カスタマーサポートとカスタマーサクセスは、目的とアプローチの面で大きな違いがあります。
カスタマーサポートの目的は、顧客からの問い合わせや問題に対処し、迅速かつ適切に解決することです。一方、カスタマーサクセスは、顧客が製品やサービスを最大限に活用し、目標を達成できるよう支援することを目的としています。つまり、カスタマーサポートは問題解決に焦点を当てているのに対し、カスタマーサクセスは顧客の成功に焦点を当てていると言えます。
アプローチの違いも顕著です。カスタマーサポートは、リアクティブなアプローチを採用しています。つまり、顧客からの問い合わせや問題が発生した際に対応するスタンスです。一方、カスタマーサクセスは、プロアクティブなアプローチを取り入れています。顧客が問題に直面する前に、製品やサービスの使い方を教えたり、ベストプラクティスを共有したりして、顧客の成功を促進しようとします。
またカスタマーサポートは、一般的に個別の問題に対し単発に対応します。毎回オペレーターが変わることがほとんどで、顧客との関係性は短期的です。これに対してカスタマーサクセスは、同一担当者が対応することが一般的で、顧客との長期的な関係を築くことに重点を置いています。一連の事象を単発的に捉えるのではなく、連続した事象とし、顧客のビジネス目標に合わせた戦略的なサポートを提供します。
役割とスキルの違い
カスタマーサポートとカスタマーサクセスは、役割や必要なスキルも異なります。
カスタマーサポートの役割は、顧客からの問い合わせや問題に対応し、迅速かつ適切に解決することです。カスタマーサポートのスタッフには、主に、問題解決能力、コミュニケーションスキル、製品知識などが求められます。
一方カスタマーサクセスの役割は、顧客が製品やサービスを最大限活用し目標達成を支援することです。カスタマーサクセスは顧客との長期的な関係を築くことを目指し、顧客のニーズを理解し適切なソリューションを提案する能力が求められるため、カスタマーサポートで求めれている資質に加えて戦略的思考力、ビジネス知識、コンサルティングスキルなどが必要です。
プロセスの違い
カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせや問題を解決するプロセスを中心に据えています。
問い合わせの受け付けから始まり、問題の切り分け、特定を行います。次に、特定された課題に対し、解決策の提案を行い、問題の解決を試みます。これが一連のプロセスであり、問題が解決されるまで繰り返され、フォローアップされるのが基本的なカスタマーサポートのプロセスです。従来は一貫してオペレーターがこのプロセスを対応していましたが、最近ではテクノロジーを駆使して、一部プロセスを代替したり、補強することで効率化を図っています。顧客が自分自身で解決できるようにFAQやchatbotを提供したり、正確な解決策を提供できるよう回答のサジェスト機能がついたツールなどがあります。
一方、カスタマーサクセスは、顧客の成功をサポートするためのプロセスを重視します。
顧客の目標達成を支援するために、まずはサービス利用の入り口を積極的に支援します。これはオンボーディングと呼ばれるプロセスで、サービスの利用率に大きく関わります。その後は、顧客の状況を適切に管理するアカウント管理などが行われ、状況に合わせた継続的なフォローアップ、アップセル・クロスセル、リテンションなどのプロセスがあります。カスタマーサクセスでは顧客の状態を可視化し把握することが重視され、CRMやデータ分析ツールなどが利用されます。
KPIの違い
カスタマーサポートとカスタマーサクセスでは、それぞれで用いられる代表的なKPIも違ってきます。
カスタマーサポートでは、運用の効率性や問題解決ができたか、また迅速にできたかを重視したKPIが用いられます。代表的なKPIには、平均応答率/時間、平均解決率/時間、顧客満足度、CPCなどが挙げられます。これらの指標を通じて、サポートチームの効率性や問題解決能力を評価します。
一方、カスタマーサクセスでは、顧客の成功に焦点を当てたKPIが用いられます。主なメトリクスには、解約率、LTV、売上継続率、NPSなどがあります。これらの指標は、顧客の成功や長期的な関係の構築に重点を置いており、カスタマーサクセスチームの成果を評価するために使用されます。
カスタマーサクセスの実践とカスタマーサポートとの連携
カスタマーサクセスチームの構築
カスタマーサクセスチームの構築には、以下のポイントに注意して進めていくことが重要です。
STEP1:目的と役割を明確にする
はじめに、目的と役割を明確に定義します。カスタマーサクセスは単なる部署や手段ではなく、会社を大きく変革させる理念であり、それらは経営層を中心に全社で取り組む必要があります。組織を跨いだ取り組みになるため、共通認識として明確な目的が必要です。この中で、「顧客の成功」についても明確に定義しておくのがよいでしょう。
また、他部門との役割の違いについても、明確にしておきましょう。役割を明確に分けておくことで、それぞれの目的に対して的確にアプローチすることができます。
STEP2:適切な人材配置を行う
次に、適切な人材配置が重要です。カスタマーサクセスでは、カスタマーサポートで求められたスキルに加えて、顧客の成功を実現するため戦略的な思考やコンサルティング的なスキルが必要になります。これらを身につけている人材を外部から採用するか、営業やサポート部門から適切にコンバートする必要があります。
STEP3:横断的な組織体制の構築する
繰り返してきたとおり、カスタマーサクセスは部門に閉じた話ではなく、全社横断的に取り組む必要がある活動です。実際、カスタマーサクセスチームは、営業、マーケティング、製品開発、サポートなど他部門と連携して業務を進めることが多いため、スムーズなコミュニケーションを確保する体制が求められます。定期的なミーティングや情報共有の仕組みを整備し、他部門との協力を促進することが重要です。
STEP4:カスタマーサクセスを計測する
カスタマーサクセスの定義に基づき、どのようなKPIを用いて計測、評価するかを決定します。決定したKPIは把握、管理ができるようにモニタリングや分析を行い、改善していくことが重要です。また、当然ですが、顧客の成功している状態とは、顧客ごとに違ってきます。ただ、リソースの問題から全て個別にアプローチすることはできません。そこで、顧客の規模や顧客数に応じて、適切に顧客をセグメンテーションし、セグメントごとに顧客の成功状態を定義し、KPIを用いることが大切です。
STEP5:フィードバックループを回す
計測したKPIを元に、常に製品や取り組みを改善していく必要があります。特に、使いやすく、事業の本質となるような製品を生み出すことがサクセスにおいては最重要項目になります。それらの製品とカスタマーエクスペリエンスとの組み合わせが重要であり、カスタマーサクセス部門は製品に対して、絶えず改善のためのフィードバックループを回す必要があります。商品企画や開発チームにどのようにフィードバックをするのか、会議体等も検討しておきましょう。
これらのポイントに注意してカスタマーサクセスチームを構築し、顧客との良好な関係を築くことで、ビジネスの成長に寄与することができます。
カスタマーサポートとカスタマーサクセスの協力
カスタマーサポートとカスタマーサクセスは、お互いの目的を補完しながら、顧客満足度の向上や長期的なビジネス成長を目指すために協力することが重要です。以下に、両部門の協力のポイントを解説します。
第一に、顧客のライフサイクル全体をサポートする連携を構築しましょう。
ライフサイクルとは、顧客が自社の商品やサービスを認知、購入、そして、ロイヤルカスタマーになるまで(または離脱)の流れを顧客の行動ベースで示したものです。その中にあるタッチポイントでどちらの部門が対応するのか役割を明確にし、お互いの専門性を活かしながら顧客に適切な支援を提供することが重要です。
第二に、顧客満足度の向上を共同で目指すために、情報共有をしましょう。
CRM等で顧客情報や問い合わせ履歴を一元化し、アクセスしやすい状態に保つことで、両チームが円滑に連携を進めることができます。顧客の状況が可視化できていると、両部門から適切な対応ができます。この可視化はなるべく担当の主観ではなく、データを元にすべきです。また、両者で問い合わせ管理の方法や履歴の粒度などを合わせておくとスムーズに情報連携できます。
第三に、両部門のコミュニケーションを強化しましょう。
カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせやトラブルシューティングを通じて得た情報をカスタマーサクセスチームと共有することで、顧客の状況把握やニーズの特定に役立てます。逆に、カスタマーサクセスチームは、顧客との長期的な関係構築や成功へのサポートを通じて得た知見をカスタマーサポートに伝え、より適切な対応を可能にします。定期的なミーティングやレビューを行い、改善点や成功事例を共有できれば、より顧客に対して満足度の高い対応が両部門で提供できます。
まとめ
本記事では、カスタマーサクセスとカスタマーサポートの基本概念、違い、そして実践方法について解説しました。
両者は目的、役割、プロセス、評価方法などで違いがありますが、お互い非常に学ぶべき点が多いと感じています。そのため、もし社内にカスタマーサクセスがない、もしくはカスタマーサポートがない企業でも外部から知見を学びながらそのエッセンスは積極的に取り入れていくことが重要です。
(個人のキャリアとしても両方の考え方を学ぶことが重要です)
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