AI音声認識とは│業務効率化のポイントと国内主要ベンダーを紹介

2025/09/05

コールセンター業界では、慢性的な人手不足や応対品質のばらつきといった課題が続いており、その解決策のひとつとして「AI」の導入に注目が集まっています。なかでも近年、急速に普及しつつあるのが AI音声認識システム です。

AI音声認識は、通話内容を自動でテキスト化するだけでなく、FAQ提示や要約生成、品質評価、リスク管理まで幅広く活用できます。これにより業務効率化や教育・研修の省力化、顧客満足度向上といった効果が期待され、導入を検討する企業も増えています。

本記事では、コールセンターにおけるAI音声認識の導入メリットや具体的な活用シーン、選定のポイント、主要ベンダーの特徴について解説します。

AI音声認識システムとは

AI音声認識システムとは、コールセンターに寄せられる通話内容をAI技術によって自動でテキスト化する仕組みのことです。音声を文字に変換することで、対応履歴の入力を省力化できるだけでなく、構造化データとして蓄積・活用できる点が大きな特徴です。これにより、応対内容の分析や改善施策への活用も進んでいます。

さらに、リアルタイムでのテキスト化が可能なシステムでは、スーパーバイザーによるモニタリングの補助や、自然言語処理と連携したFAQの自動レコメンド、応対要約の生成など、多様な業務支援が実現できます。これにより、オペレーターの負担軽減と顧客対応の品質向上を同時に図ることができます。

AI音声認識システムが注目されるようになった背景

AI音声認識システムが注目を集める背景には、コールセンターが長年抱えてきた3つの課題があります。

深刻な人手不足

コールセンターでは慢性的な人手不足が続いています。コールセンター白書2024によると、オペレーター全体の年間離職率は「5%以下」が44%と最も多い一方で、6〜10%が30%、11〜20%が13%、21〜30%が8%、31%以上も5%存在しています。

さらに、非正規雇用の社員オペレーターに限ると「5%以下」が33%にとどまり、6〜10%が23%、11〜20%と21〜30%がそれぞれ17%、31%以上も10%と、全体に比べて高めの離職率傾向が見られます。

加えて、若年層の「電話離れ」や他業界の時給高騰による採用難もあり、慢性的な人材不足が解消されにくい状況です。教育体制の不十分さやクレーム対応の負担が重なり、オペレーターの定着が難しいことも大きな課題となっています。

SNS時代に求められる高いサービスレベル

SNSの普及により、顧客対応の一つひとつが企業ブランドに直結するようになりました。良い応対は拡散され評価につながる一方、不適切な対応は瞬時に信用を損なうリスクがあります。こうした背景から、企業はこれまで以上にオペレーターの応対品質やモニタリングに力を入れる必要があります。

意味のあるデータ蓄積・分析への期待

コールセンターは年間で数万件規模の問い合わせが発生する、企業にとって重要なVOC(顧客の声)データの宝庫です。しかし音声データは非構造化データであり、そのままでは分析が困難です。従来はオペレーターの入力履歴に頼っていましたが、記録の粒度や精度にばらつきがあるため、分析に活かしにくいという課題がありました。

AI音声認識により音声をリアルタイムで正確にテキスト化し、均一なデータとして蓄積・活用することが可能になれば、顧客体験の改善や業務効率化に直結する期待が高まっています。

AI音声認識システムを導入するメリット

AI音声認識システムの導入によって、コールセンター運営にはさまざまな効果が期待できます。
特に大きなメリットとして、以下の3つが挙げられます。

  • オペレーター支援による効率化
  • 応対品質の向上
  • コンプライアンス強化・リスク管理

オペレーター支援による効率化

AI音声認識は、オペレーターの業務を補強する「アシスタント」として大きな役割を果たします。顧客の問い合わせ内容をリアルタイムでテキスト化し、FAQやマニュアル、想定される回答例を画面上に提示することで、オペレーターは適切な情報に素早くアクセスできます。

これにより、ナレッジ検索の精度とスピードが向上し、新人オペレーターでもスムーズな応対が可能になります。教育や研修にかかる時間を短縮できるのも大きなメリットです。さらに、対応内容入力の手間も軽減され、1件あたりの処理時間削減や応答率改善にもつながるでしょう。

応対品質の向上

AI音声認識システムは、会話内容を文字化するだけでなく、応対品質を客観的に可視化することができます。たとえば、NGワードの検知や会話のラリー数、話速などを数値化し、オペレーターごとの対応状況を比較できます。

従来のようにスーパーバイザーが全通話をモニタリングする必要がなくなり、重点的に確認すべき通話だけを効率的に抽出できます。その結果、教育や改善指導を効果的に行えるようになり、応対の標準化が進みます。これにより、誰が応対しても一定以上の品質を保てる体制づくりが可能になります。

コンプライアンス強化・リスク管理

顧客との通話には、契約内容や個人情報など重要な情報が含まれます。AI音声認識を導入すれば、すべての会話を自動で記録・保存できるため、トラブル発生時のエビデンス確保や監査対応に活用できます。

また、リアルタイムでNGワードや禁止表現を検知する機能を持つシステムもあり、リスクを未然に防ぐことができます。法令遵守や顧客保護が求められる業界において、こうした仕組みは欠かせません。AI音声認識は、効率化だけでなく企業の信頼性を支える基盤としても重要性を増しています。

【導入事例】大手インターネットサービスプロバイダ通信事業会社のAI音声認識システム活用方法

ここで大手インターネットサービスプロバイダ事業を展開する通信事業会社の事例をご紹介します。
同社は全国8拠点1400席のコールセンターを運営しており、サービス利用方法やトラブルシューティングなどお客様からの問い合わせに対応しております。

AI音声認識システムを導入した目的は、コールセンターの応対品質やパフォーマンスのばらつきを抑え、オペレーターの人材不足の市場でも安定的なセンター運営を行うためです。
AI音声認識システム導入により、オペレーターの業務が効率化、後処理時間90秒短縮による人件費の大幅な削減が見込まれ、通話の見える化によって応対品質の向上・均一化が可能になりました。

AI音声認識システム選定時の注意点とは?

何を基準に選定すればいいのか

音声認識を選定する際に最大のポイントとなるのは「認識精度」です。どれだけ機能が優れていても、認識精度が悪ければパフォーマンスを発揮しません。
そのため、まずは認識精度を見ることが重要になります。

チューニングコストに注意

システム選定時に気をつけなければいけないのが、初期の認識精度だけで比較してはいけない点です。

音声認識は初期の認識精度だけでなく、その後どのように認識精度が上がり、そして維持できるのかがポイントになります。
現状の音声認識システムは、放置しておくと認識精度がどんどん下がっていきます。認識精度を維持するには、「チューニング」と呼ばれる定期的なメンテナンスが必要になりますが、このチューニング作業は通常ベンダー側が行う場合が多く、費用が発生します。

そのため、システム導入前には「チューニングにどれだけの工数とコストをかけないといけないか」といった点を確認することで、長期間活用が可能かどうかの判断ができます。

数字だけで判断するのは危険

また、認識率の「数字」だけでみるのも注意しなくてはいけません。
認識率は通常、音声認識によってテキスト化された文字が正解テキストに対してどれだけ正確に文字化されているかを割合でみます。

しかし、この誤字脱字の考え方や1文字ごとにみるのか、1単語ごとでみるのかなど企業によって認識率の取り方はバラバラです。
そのため、数字上は同じ認識率でも受ける印象が全然違う場合もあります。

認識率は数字だけでなく、見た目の印象、またそれを補完するUIや機能があるかが重要になります。

国内AI音声認識システム主要ベンダーとその特徴

最後に、コールセンター向けにソリューションを展開している国内主要ベンダー4社を紹介します。

株式会社アドバンスト・メディア

サービス名:AmiVoice®Communication Suite
アドバンスト・メディアは、国内でトップシェアをもつ音声認識ベンダーになります。

大手カード会社や運送会社など、幅広い業界のコールセンターに対して導入実績があります。長年お客様の要望に応え機能を開発してきており、初期で実装されている機能面も充実しています。

また、大手PBXメーカーやCRMメーカーとも提携を結んでおり、連携実績も多数あるため、既存システムとの連携もスムーズにできる点が強みになります。

<特徴>

  • 国内最多の導入実績
  • 感情分析、オペレーター評価システムなど機能が豊富
  • PBX、CRMなど各システムとの連携実績多数

Hmcomm株式会社

サービス名:Voice Contact® Hmcomm
Hmcomm株式会社は産業技術総合研究所発の音声認識ベンチャーになります。

産総研独自の音声処理技術を用いた要素技術の研究や開発、 ソリューション、サービスの提供を行っており、国内ベンチャー賞で多くの受賞歴があるなど、国内でも有数の技術を保有しています。

また、ユーザー側でチューニングができる独自の機能(特許)を提供しており、チューニング作業が手軽にできることも大きな特徴になっています。

音声認識、自然言語処理の研究も行っており、音声認識から要約までをすべて自社ソリューションとして提供しているのも強みになります。

<特徴>

  • 産業技術総合研究所発の高性能エンジンを使用しており、精度が高く、相対的に安価である
  • ユーザー側でチューニングができる独自機能も含め、全ての機能をワンストップで提供
  • フルスクラッチによりPBX、CRMなど連携可能

東芝デジタルソリューションズ 株式会社

サービス名:東芝コミュニケーションAI RECAIUS(リカイアス)
東芝デジタルソリューションズ株式会社は日本の大手電機メーカーであり、音声認識、音声合成、翻訳、対話、意図理解、画像認識などを統合した「東芝コミュニケーションAI RECAIUS(リカイアス)」を提供する会社です。
特徴は全ての製品を⾃社開発しており、認識・合成ともに⽇本語に強い点です。

また独自の⾳声特徴量抽出技術を採⽤しており、できるだけ少ない文で認識精度を上げていくことができます。
今後翻訳や音声合成を利用した自動応答など、音声認識のみならず、機能の拡張が期待されます。

<特徴>

  • 話し⾔葉に強く、少ないデータで学習可能な独⾃カスタム技術
  • 日・英(米語)・中(北京語)・韓国語に対応
  • 音声合成、機械翻訳の技術を保有

丸紅情報システムズ株式会社

サービス名:omnis (エムシスオムニス)
丸紅情報システムズは、SIerと技術商社という2つの特性を持つ丸紅の子会社になります。

Google Cloud Platform(Googleが運営しているクラウドコンピューティングのプラットフォーム)をコールセンター利用に特化したソリューションとして展開しています。

全世界のGoogle ユーザーが日々認識精度向上に貢献しているため、初期の段階から高い認識率を出すことができます。

また、クラウドを利用し従量課金での提供となるため、繁閑差が激しいコールセンターに導入しやすいメリットがあります。また、短期間での導入が可能になっているのが強みになります。

<特徴>

  • Google音声認識をベースとした初期の高い認識率
  • 従量課金のため、利用した分のみの費用となり過剰な設備投資が不要
  • 導入にかかる時間が短い(最短1か月で導入可能)

図1-1 機能比較表

※スマートフォンの画面サイズではスクロールが可能です。

機能Advanced
Media
HmcommRECAIUSOmnis
自動
言語
学習
××
ユーザー
チュー
ニング
機能

ベンダー
依頼必要

ベンダー
依頼必要
×
チューニング
不可
単語登録
リアルタイムテキスト化
自動FAQ検索
他社連携
必須

AP提供
自動要約
他社連携
必須

AP提供
自動帳票入力×××
モニタリング機能×
感情分析
オプション
×
自動FAQ生成×××
オペレーター評価機能
オプション
×

図1-2 価格と機能のポジショニング

図1-3 チューニングコストのポジショニング

AI音声認識システムのまとめ

比較した4社の認識精度は、オペレーターの認識率が平均80~95%と言われており、顧客など鮮明でない話し方の音声は、平均50~80%程度と言われています。

また認識精度はPBXやオペレーションに依存するため、実務に耐えうるかはPoCを実施するまで評価が難しいところがあります。

そのためPoC実施の際は、認識精度はもちろんですが各社の機能特徴をつかみ、自社のオペレーションにあったものを選ぶことが大切です。

また音声認識は導入後もメンテナンスが必要なため、メンテナンスのしやすさや各社の対応についても注目する必要があります。

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Writer編集者情報

  • コネナビ編集部 小林 弘明

    新卒1年半は銀行にて勤務。その後 株式会社セントメディア(現:株式会社ウィルオブ・ワーク)にキャリアチェンジし、営業職と支店長を経験。
    その後4年間は教育担当者として従事し、本部営業を1年間経験。現在は営業推進部マネージャとしてスタッフキャリア支援を担当。

    ・趣味:北海道の田舎で育ったので、自然アクティビティが大好き!特にシュノーケリング、川遊び。
    ・特技:飲み屋でだれとでもすぐ仲良くなること。

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