【事例解説】生成AI導入で変わるカスタマーサポート│海外成功事例をご紹介
2024/09/04
生成AIがビジネス全体を席巻していますが、特にカスタマーサポート領域での活用は期待が大きく、業務効率化、顧客体験の向上など、さまざまな効果が期待されています。日本でも大手企業を中心に導入が進んでおりますが、まだまだ範囲は限定的です。一方、海外では人件費高騰を背景に、より大胆なAI活用が進んでいます。
本記事では、生成AIの基本概念を解説した上で、海外における先進的な取り組みを詳しく解説します。生成AIをどのようにカスタマーサポートに活用しているか米国や欧州の成功事例を学ぶことで、日本企業がカスタマーサポートの質を高めるヒントが得られるはずです。
生成AIとは何か? – 基本概念の解説
生成AIとは、大量のデータを学習して、新しいコンテンツを生成するAI技術です。テキスト、画像、音声、動画など、様々な種類のコンテンツを作り出すことができます。
生成AIでできることは日々発見されており、SNSなどでは最新の事例がアップデートされています。2023年11月時点で、生成AIでできることの一部を抜粋し一覧でまとめると以下になります。
大規模言語モデル(LLM)の概要
生成AIの中核となるのは、大規模言語モデル(Large Language Model, LLM)と呼ばれる技術です。大規模言語モデルは、インターネット上の膨大なテキストデータを機械学習によって解析し、言語の構造や文脈を理解します。これにより、人間のような自然な文章を生成したり、質問に対して適切な回答を返したりすることが可能になります。
大規模言語モデルの代表例としては、OpenAIが開発する「GPTシリーズ」やGoogleが開発する「Gemini」などがあります。これらのモデルは、数百億から数千億のパラメータを持ち、人間に匹敵する言語処理能力を示しています。大規模言語モデルは、カスタマーサポートの自動化や効率化に大きく貢献すると期待されています。
生成AIがカスタマーサポートにもたらすインパクト
GPT-3の登場以来、大規模言語モデルによって多くの仕事が奪われるのではないかと大きな注目を集めています。特にカスタマーサポートの分野では、大規模言語モデルの活用によってサポートチームの人員を大幅に削減できる可能性が指摘されています。
現状はバックオフィスの業務を一部代替するまでに留まっておりますが、カスタマーサポート分野で期待されるのは顧客の課題を直接解決することです。インドのフィンテック企業ペイティーエムのカスタマーエクスペリエンス責任者Agrawal氏は、生成AIはカスタマーサポートの各段階で様々なインパクトをもたらすと指摘します。(詳細:LLMs and Generative AI in Customer Support)
海外事例(ベンダー企業)
世界の先進企業は、生成AIをカスタマーサポートに積極的に導入しています。各社の革新的な取り組みと、その効果について詳しく見ていきましょう。まずは、生成AIを使ったソリューションを提供するベンダーの事例です。
セールスフォース(アメリカ)
米国のCRM大手セールスフォースは、2019年に自然言語処理AIプラットフォーム「Einstein」を発表、現在はこの「Einstein」に生成AIが組み込まれており、業務の効率化を実現しています。
具体的には、チャットボットなどによる顧客への返信の自動生成などが行われております。まず顧客の質問を理解し、答えを探すためにさまざまなナレッジソースを選別することでこれを実現しています。このナレッジソースにはウェブリンク、ナレッジベース、CRM、その他さまざまな顧客データベースなどが含まれており、高度なパーソナライズ化の実現も可能になります。
また、サポートチケットの内容を基にFAQを自動で作成することも可能です。参照にするのは、ケースメモだけでなく、チャットツールで交わした会話、メッセージやり取りの履歴なども駆使することができます。そのほかにも、過去の成功例や関連データを分析し、問題解決に最適なチームメンバーを即座に割り当てることができる機能などを提供しています。
参照:3 Ways Generative AI Will Reshape Customer Service
アマゾン(アメリカ)
クラウドサービスを展開するアマゾンは、コンタクトセンター向けに「Amazon Connect」を展開しており、生成AIによる拡張にも積極的です。
特に「Amazon Q」はエージェントが顧客の要求をリアルタイムで理解し、適切な対応を提供するために重要な役割を果たしています。また、「Contact Lens」を通じて、顧客対話の要約作成やエージェントのパフォーマンス評価が行われ、サービスの品質向上に寄与しています。さらに、「Customer Profiles」では、様々なデータソースからの情報を統合し、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされたサービス提供が可能になっています。
参照:Amazon Q と Amazon Connect の新しい生成系 AI 機能がコンタクトセンターのサービス向上を促進
トゥイリオ(アメリカ)
トゥイリオは2023年8月に「CustomerAI」を発表しました。これはトゥイリオがもつ顧客データと大規模言語モデルを組み合わせた機能を提供するものです。
具体的には、顧客理解を深化させるための機能が提供されており、通話内容からインサイトを抽出する機能などがあります。この機能により、ナレッジベースにギャップがある場合(例えば活用できるナレッジ記事がない場合)などを見つけることができます。さらに、コンタクトリーズンを評価し、新しいナレッジ記事を作成することも可能です。
加えて、メールの自動生成、顧客ジャーニーの自動構築、最適なアクションの提案、通話内容の要約なども可能です。これらの機能により、顧客理解をより深めることができます。
海外事例(ユーザー企業)
次に、生成AIを活用するユーザー企業のユースケースについても見ていきましょう。
ベストバイ(アメリカ)
米国の大手家電量販店ベストバイは、AIを活用して顧客サービスの向上だけでなく、従業員の労働環境改善にも取り組んでいます。
このAIツールは、リアルタイムで顧客との会話を評価し、その瞬間に関連性が高いコンテンツを推薦しオペレーターの業務を支援します。同時に、会話を要約し、感情を検出し、通話からのデータを活用して、同様の問題が将来発生する可能性を減らすことができます。これにより、エージェントは顧客のニーズにより的確に対応できるようになり、顧客満足度の向上が期待されます。
ベストバイのこれらの取り組みは、生成AIが人間の能力を拡張することができる可能性を示しています。AIによる業務の自動化と効率化は、従業員の生産性を高め、より付加価値の高い仕事に専念できる環境を作り出します。
参照:A Peek into Best Buy’s Plans for Improving Customer Support With GenAI
クラーナ(スウェーデン)
スウェーデン発のフィンテック企業クラーナは、生成AIを搭載したチャットボットを活用し、品質を落とさずに人間の業務を代替することに成功しています。
このチャットボットは、これまでに230万回もの会話を行い、すでにカスタマーサービスチャットの3分の2の業務を担っています。その業務量はフルタイムのオペレーター700人分に相当します。さらに、顧客満足度において人間のオペレーターと同等の評価を得ています。
さらに、注目すべきは一次解決率の向上です。チャットボットの導入により用件の解決がより正確になり、再問い合わせが25%減少しています。また、以前は11分かかっていた用件の解決が、2分以内で完了するようになっています。このチャットボットは、23の市場で24時間365日利用可能で、35以上の言語でコミュニケーションが可能です。
クラーナは、このチャットボットによって、2024年には4,000万米ドルの利益改善を見込んでいます。生成AIを活用したカスタマーサポートの自動化と効率化が、企業の収益にも直結することを示す好例と言えるでしょう。
参照:Klarna AI assistant handles two-thirds of customer service chats in its first month
日本のカスタマーサポートにおける生成AIの現在地
日本でも、生成AIのカスタマーサポートへの活用は大手企業を中心に始まっています。この章では日本のカスタマーサポートにおける生成AIの現在地を紹介します。
すでに活用が進んでいる領域
日本のカスタマーサポートにおいて、生成AIの活用が最も進んでいるのはバックオフィス業務です。特に、FAQやメール本文の作成など、テキストベースの業務においてはすでに実用レベルです。完全自動化までとはいきませんが、これまで人間が全て作成していた業務を大部分効率化できています。
実際にJR西日本カスタマーリレーションズでは、お問合せ内容の要約、メール作成の業務対応時間を約34%削減しています。プロジェクトの詳細は弊社インタビュー記事も参考ください。
技術的な限界
活躍が期待される大規模言語モデルですが、一方で技術的な限界もあり、フロント業務での活躍は限定的です。会話の品質をどのように担保するのかは非常に難しい問題です。特に、日本語は敬語や言葉の曖昧さ、文脈依存性が高いため、生成AIが顧客の真の意図を汲み取るのは容易ではありません。
また、レスポンス速度も課題です。計算能力を際限なく上げていけば、レスポンス速度も改善されますが、そうすると1応答あたりのコストが非常に高くなります。現在はなんでもできる汎用的な大規模言語モデルを使うのではなく、用途を限定した特化型の大規模言語モデルをカスタマーサポート用にチューニングして、できるだけ精度を損ねずにモデルを軽くする取り組みなどが行われています。
生成AIの進化の可能性
先にあげた技術的な課題も数ヶ月、数年もすれば解決される可能性もあります。
先日、発表された「Play.ai」では英語による高精度のやりとりを実現しています。ほぼレイテンシーがなく、感情豊かな表現ができ、人間と話しているのに近い体験が可能です。まだ、英語のみで限定的なデモに限られているものの、今後改良されていけばカスタマーサポートで活用される可能性は高いでしょう。
このように、生成AIは日進月歩で進んでいる分野のため、数年後あるいは数ヶ月後にはさまざまなことが実現できるようになるでしょう。
まとめ
本記事では、生成AIがカスタマーサポートにもたらすインパクトについて、海外事例をもとに詳しく解説してきました。
海外ではすでに大手企業が生成AIを導入し、顧客満足度の向上やコスト削減を実現しています。一方、日本ではバックオフィス業務での活用は進んでいますが、フロント業務への活用はこれからです。生成AIはカスタマーサポートを大きく変革する可能性を秘めています。企業はその可能性を見極め、適切に活用することが求められるでしょう。
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