【未来予測】コンタクトセンターを抜本的に変える。パーソナルエージェントの可能性

2025/04/03

2025年、コンタクトセンター業界で最も注目されているのは「AIエージェント」だと思いますが、そのさらに先に期待されているのが、パーソナルエージェント(個人最適化AIエージェント)です。各個人や特定の文脈に最適化されたAIエージェントを活用することで、カスタマーサポート業務の効率化と顧客満足度の維持・向上が期待されています。

本記事では、パーソナルエージェントの概要と仕組み、コールセンター業界への影響、有識者や調査会社による未来予測について、分かりやすく解説します。

パーソナルエージェントとは何か?

パーソナルエージェントとは、一言で言えば「自分専用に最適化されたAIの代理人」です。AIがユーザーや顧客それぞれの状況・ニーズに合わせて動的に対応する存在であり、人間の代わりに一定の判断や行動を自律的に行います。

従来のボットのように決められたシナリオやパターン応答をするだけでなく、与えられた目標を達成するために自律的に考え、行動する点が大きな特徴であり、それらが各個人の背景情報に紐づいていることがポイントです。

パーソナルエージェントの仕組み

まずは一般的なAIエージェントについての仕組みをおさらいしましょう。
(詳しくは過去の記事でも解説しています)

内部にはChatGPTに代表されるような大規模言語モデル(生成AI)が核として組み込まれ、大量のデータから学習した知識を活用します。そして必要に応じて社内データベースや外部ツールにもアクセスしながら、ユーザーの要求に対して最適解を導き出します。

パーソナルエージェントは、一般的なAIエージェントと違い、スマートフォンなどのエッジデバイスに組み込まれており、普段からユーザーの個人データ、過去の行動履歴、好みなどを学習しており、それに基づいて最適なサービスを提供します。​例えば、ユーザーのスケジュール管理や好みに合わせた音楽の推薦など、個人向けのサービスを提供します。​

このように、パーソナルエージェントは、AIエージェントの中でも特に個人に特化したサービスを提供する点で、一般的なAIエージェントとは異なる仕組みを持っています。

パーソナルデータとAIエージェントの関係

パーソナルエージェントが真価を発揮するためには、個人のデータ(パーソナルデータ)の活用が欠かせません。エージェントの判断材料となるパーソナルデータには顧客それぞれの購買履歴、過去の問い合わせ内容、Web上の行動履歴、契約情報、嗜好アンケート結果などが含まれます。データが豊富であればあるほど、AIはより的確かつ個別化された回答や提案が可能になります。

具体的な活用例として、EC向けAIエージェントでは、自社ストアの受注履歴やFAQデータを読み込ませることで「そのブランドらしい回答」を生成し、汎用的な答えにならないよう工夫されています。パーソナルデータの活用によって、回答内容がよりユーザーの状況にフィットし、「自分のことを分かってくれている」と感じられる対応ができるのです。

もっとも、個人データを扱う以上、プライバシー保護やデータの管理には最新の注意が必要です。ユーザーの許可なくデータを利用しない、不要な個人情報は保存しないといった方針で運用することが重要になります。

パーソナルAIエージェントはユーザー本人の利益のために動くことが前提です。適切に設計されたエージェントであれば、ユーザーの代理人としてプライバシーを守りつつデータを活用する「信頼できる執事」のように機能し得ます。Consumer Reports(米国の消費者団体)も、ユーザーの利益を最優先しプライバシーに配慮したプロユーザー型AIエージェントの可能性を示唆しており、こうした取り組みが進めば消費者が自分のデータを駆使してサービスを受ける新しい形が生まれるでしょう。

セントラルAIからパーソナルAIへの変化

従来の「セントラルAI」とは、企業内にある一つの大規模なAIシステムや、汎用的なチャットボットが中央集約的に全顧客対応を行うイメージです。知識ベースやロジックも一括で管理され、すべてのユーザーに画一的な対応を提供してきました。

しかし昨今、このモデルから各ユーザーや文脈に適応した「パーソナルAI」への移行が注目されています。パーソナルAIでは、AIが個々のユーザーのコンテキストや履歴を深く理解し、その人に最適化された対応を行います。言わばAIがおのおのの「分身」として機能し、ユーザーごとに異なる振る舞いをするのです。ChatGPTの開発者サム・アルトマン氏も「人々の日常に深く入り込み、まるで自分自身の拡張のように振る舞うパーソナルなエージェントこそが、AIの“キラー機能”になる」と述べています​。

従来はユーザー側がAIに合わせて質問を投げかけていましたが、今後はAIエージェントが主体的・能動的にユーザーを支援する存在へと変わっていくと期待されています。

顧客対応の進化:「人から人」→「人からAI」→「AIからAI」へ

パーソナルエージェントの導入が進めば、コールセンターの顧客対応は大きく変わることが予測されます。これまでの歴史を踏まえて、顧客対応がどのように変化してきたか、そしてどのように変化していくかを見ていきましょう。

フェーズ1:人から人(Human to Human)

従来のコールセンター対応は、すべて人間のオペレーターが担っていました。顧客が困りごとを感じた際、電話でオペレーターに相談し、人の知識と経験によって問題が解決される、いわば人同士のコミュニケーションが主役の時代です。

このモデルの強みは「共感」や「柔軟な対応」でしたが、一方で人がやることの課題も明確でした。特に近年は採用難や離職率の高さが重なり、「人から人」モデルだけでは限界があるという声が高まっていました。

フェーズ2:人からAI(Human to AI)

そこで登場したのがチャットボットFAQシステムなど、AIによる問い合わせ対応の自動化です。顧客が直接AIに問い合わせを行い、定型的な質問には即時回答されるようになりました。現状、多くの企業がここのフェーズに取り掛かろうとしている状況です。

この段階では、AIはまだ受動的であり、「人間が質問する → AIが回答する」という関係にとどまっています。また、現在は生成AIRAGといった技術を使い、課題の解決が試みられていますが、「複雑な問題には対応できない」ことや「顧客の個別事情を理解しない画一的な対応」などが課題として浮き彫りになっています。

フェーズ3:AIからAI(AI to AI)

パーソナルエージェントの登場は、この「AIからAI」へ進化するトリガーになります。これは、顧客側にもAIエージェントが存在し、企業側のAIと直接対話・交渉・連携を行うという新しい構図です。

顧客のパーソナルエージェントがユーザーの代わりに問い合わせや処理を代行することで、企業のコールセンター側にいるAI(サポートエージェント)と、AI同士が自律的にやり取りして問題解決を図るようになります。このシステムでは、人間はそのやり取りの結果や報告だけを見る、あるいは意思決定だけに関わる形に移行していきます。

たとえば、顧客が「スマホの請求内容が気になる」と呟くと、自分のパーソナルエージェントが自動で通信会社に問い合わせを送り、通信会社側のAIが内容を確認して応答します。両者が合意形成した後、顧客には「今月は追加データ料金が含まれています。詳細はこちら」と結果だけが届くというプロセスになります。この構造によって、顧客と企業の間で人が直接関わらない、新しいエンゲージメントが生まれることになります。

「AIからAI」時代のコールセンターの役割とは

この段階に入ると、コールセンターは「最終判断と例外対応のプロフェッショナル集団」へと変化していきます。

  • 定型業務や問い合わせはAI同士で完結
  • オペレーターは「AIでは判断が難しいケース」のみに集中
  • 顧客満足度を左右する「最後のひと押し」や、「人間らしさが必要な場面」で活躍

つまり、人間の役割は減るのではなく、「より価値の高い仕事に集中できるようになる」のです。

パーソナルエージェントに関する予測

2027年ごろにパーソナルエージェントの実現を予測

ソフトバンク株式会社の子会社であるGen-AX株式会社 砂金信一郎CEOは、AIエージェントが人々の生活に深く浸透する未来について言及し、2027年には個々人に寄り添い、日常生活をサポートする「パーソナルエージェント」が実現すると予測しています。​このパーソナルエージェントは、ユーザーの行動や好みを理解し、適切な情報提供やタスクの代行を行うことで、生活の質を向上させることが期待されています。

2029年までに「agentic AI」がカスタマーサービスの定型問い合わせの80%を自律的に解決

パーソナルエージェントに限らない話では、ガートナー社の予測で、2027年までに約25%のカスタマーサービス業務でAIチャットボットが活用されるようになり、2029年までに「エージェント的AI(agentic AI)」がカスタマーサービスの定型問い合わせの80%を自律的に解決し、人間の関与なしで処理できるようになるとされています​。この自動化によって運用コストが30%削減できるとも報告されています​。(出典:Agentic AI Expected to Resolve 80% of Common Issues by 2029

また別の調査では、AIを導入済みの企業では2025年までに問い合わせの約65.7%をAIが解決できるとの予測もあります​。逆に言えば、AI未導入のコンタクトセンターは同等の問い合わせ量に対して2.3倍の人員を要するとも分析されており​、AIの活用が業務量削減に不可欠であることが示唆されています。(出典:Why Healthcare CIOs Should Automate FAQs with Conversational AI

2030年には人間のエージェントは高度に専門化されたエキスパートとして配置

一方、「AIがすべてのオペレーターを置き換える」わけではないことも強調されています。マッキンゼーの調査によれば、現時点で完全自動化が可能な職種は全体の5%程度に過ぎないとされ​、多くの業務は一部を自動化しつつ人間の判断や対話力を組み合わせる形になると見られます。実際、2030年のコンタクトセンターでは、人間のエージェントは高度に専門化されたエキスパートとして配置されるだろうと予測されています。(出典:A McKinsey report

AIが代替できる定型業務は自動化され残るのは複雑で高度な交渉や感情的サポートなど「人間ならでは」の対応であり、それを担うオペレーターはより高度なスキルを要求されます。ある業界専門家は「コンタクトセンターはよりハイタッチで専門性の高い場になる。AIが手続きを処理し、人間は信頼醸成など人間同士の繋がりが必要な場面を担う。高額商品や重要な案件では人の関与が不可欠で、人と人との信頼の伝達がセールスの本質だ」と述べており​、今後も人間の役割が重要であることを強調しています。
(出典:Contact Centers in Ten Years: Humans are Here to Stay

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【2025年最注目】AIエージェントの導入でコールセンターはどう変わる?概要・課題・事例を徹底解説

パーソナルエージェントについてのまとめ

パーソナルエージェントは、コールセンターが抱える人手不足の課題に対する有力なソリューションであり、業務効率と顧客満足度の双方を高める鍵として期待されています。

AIがオペレーターを支援・代行することで24時間対応や迅速な問題解決が可能となり、限られた人員でも高品質なサポートを維持できます。また、個々の顧客に合わせたパーソナライズ対応によって、一人ひとりに寄り添ったサービス提供が実現します。

技術のトレンドは中央集約型のAIから個人最適化されたAIへとシフトしつつあり、将来的には誰もが自分専用のAIエージェントを持つ時代が来るかもしれません。そうなれば、コールセンターの役割も大きく様変わりし、「AIと人間が協働するハイブリッドな労働力」によって新しい顧客体験が生み出されるでしょう。

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Writer編集者情報

  • コネナビ編集部 平井 美穂

    2012年、株式会社セントメディア(現:株式会社ウィルオブ・ワーク)へ入社し、コールセンターとオフィスワークに特化した人材サービス事業部に配属。大手携帯キャリアのコンタクトセンターにて、カスタマーサポートを行いながら、自社派遣社員のサポートやフォローに努める。CSを2年経験した後、営業コーディネーターやキャリアアドバイザー、転職支援など幅広い業務を経験。現在は、2人のこどもを育てるワーキングマザー。

    ・趣味:森林浴、神社巡り、アートに触れること
    ・特技:細かい点に気が付くところ

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