インバウンドコールセンターのKPIまとめ|代表的な指標と算出方法を解説
2025/05/30
- 品質向上
- 顧客満足度向上

インバウンド型(受電)コールセンターにおいて、業務の質や効率を評価・改善していくうえで欠かせないのが「KPI(重要業績評価指標)」の存在です。
KPIは、単に数値を追うためのものではなく、顧客満足度や応対品質、業務効率、現場マネジメントの安定性など、あらゆる側面を可視化し、改善につなげる指標です。
本記事では、インバウンド型コールセンターでよく使われる代表的なKPIを目的別に整理し、それぞれの概要や算出方法をわかりやすく解説します。
指標ごとの詳しい内容や改善ポイントについては、各項目にリンクしている関連記事もあわせてご活用ください。
▼アウトバウンドで使われるKPIの一覧はこちら
「アウトバウンドコールセンターのKPI|代表的な項目・設定する重要性を解説」
KPIとは何か?
KPI(Key Performance Indicator)とは、設定した目標を達成するための過程を計測・評価する中間指標のことです。日本語では、「重要業績評価指標」とも言います。
ビジネス全体で使われる概念ですが、コールセンターにおいては「応答率」「処理件数」「顧客満足度」など、日々の業務状況や品質を可視化するために設定されます。
KPIを活用する目的は、単に現場の成果を評価するだけでなく、課題の早期発見や業務改善の判断材料とすることにあります。
数値の推移を定期的に確認することで、変化にすばやく対応できる体制づくりにも役立ちます。
コールセンターの運営を安定させ、サービス品質を維持・向上させるうえで、KPIの設定と管理は欠かせない要素といえるでしょう。
コールセンターでKPIを管理する理由
インバウンド型コールセンターでは、「顧客満足度の向上」や「応対品質の改善」など、成果がすぐに見えづらい目標が多くあります。
こうした目標を達成するには、日々の業務プロセスを数値で“見える化”し、現場全体で共有・改善していく必要があります。
KPIを設定することで、オペレーターやSVにとっては具体的な目標となり、管理者にとっても評価や育成の基準になります。たとえば、AHTが長い場合でも、その原因が業務フローによるのか、個人スキルによるのかを分析し、適切な対策を講じることができます。
KPIには、「成果指標(例:顧客満足度)」と、その達成に向けて管理すべき「プロセス指標(例:応答率やAHT)」があり、両者をバランスよく追うことが、センター全体のパフォーマンス向上につながります。
つまり、KPIは現場の状態を客観的に把握し、改善の打ち手を導き出すための“ナビゲーション”のような役割を果たしているのです。
【一覧表】コールセンターで代表的なKPIをご紹介
コールセンターでは、応対品質や業務効率、マネジメント、顧客満足度など、さまざまな観点からKPIを設定・活用しています。
本章では、目的別に分類した代表的なKPIを一覧でご紹介します。
各指標の意味や算出方法など、詳しい内容は次章以降でそれぞれ解説します。
カテゴリ | 主なKPI | 概要 |
応対品質 | 応答率/放棄率/SL/平均応答速度(ASA)/一次解決率(FCR) | つながりやすさや一次解決力など、応対の質を測る指標 |
生産性・業務効率 | CPH/ATT/ACW/AHT/CPC/稼働率 | センター全体の処理効率や生産性を測る指標 |
顧客満足度 | 欠勤率/離職率 | 人員状況や働きやすさなど、現場の体制に関わる指標 |
マネジメント | 顧客満足度(CS)/NPS | 顧客体験の結果や企業へのロイヤルティを評価する指標 |
応対品質に関するKPI
KPI項目 | 概要 | 算出方法 |
応答率 |
着信呼数に対し、オペレーターが対応した数(一部、IVRでの対応も含む)の割合のこと。 |
対応呼(件) ÷ 着信呼(件)数 × 100 |
放棄呼率 (アバンダンコールレート) |
着信呼数に対する放棄呼数の割合のこと。応答率と対をなす。 |
放棄呼(件) ÷ 着信呼(件)数 × 100 |
SL (サービスレベル) |
着信呼数に対し、設定した時間内で応答できた呼数の割合のこと。 |
規定時間内につながった件数 |
ASA (平均応答速度) |
着信要求があってから、オペレーターが応答するまでの平均時間のこと。 |
繋がった呼の待ち時間 |
FCR (一次解決率) |
顧客からの問い合わせが、再対応や折り返しが発生せずに解決できた割合のこと。 |
一次対応で解決できた件数 ÷ 総対応件数 × 100 |
応答率・放棄呼率とは
「応答率」は、コールセンターにかかってきた電話に対して、どれだけ対応できたかを示す基本的な指標です。センター運営において、まず重要なのは“つながること”。その意味でも、応答率は最も重視されるKPIのひとつです。
なお、「応答率」と「放棄呼率(放棄率)」は裏表の関係にあり、放棄呼率で管理しているセンターもあります。
応答率が悪化する典型的な状態は、以下の式で表されます。
着信している呼量>受付可能なオペレーター数
このような状態に陥る原因としては、以下のようなケースが考えられます。
- 呼量の急増(例:自然災害、リコール、テレビやSNSでの話題化など)
- スタッフ数の減少(例:退職・欠勤、採用難、離席中のオペレーターが多い)
- オペレーター1人あたりの処理能力の低下(例:後処理時間の増加、研修不足、新人の比率増加、システム不具合など)
応答率が下がっている場合は、まず「どこに原因があるのか」「一時的なものかどうか」を見極めることが重要です。特に、低下している時間帯のセンターの稼働状況を細かく確認し、状況に応じた対策を迅速に講じることで、影響を最小限に抑えることができます。
▼応答率・放棄呼に関する記事はこちら
「コールセンターの応答率とは?適正目安や低下の原因、効果的な改善策を解説」
「放棄呼とは?コールセンターでの発生原因、放棄呼率の計算方法・改善策を解説」
SL(サービスレベル)とは
SL(サービスレベル)は、「着信から一定時間内にどれだけの電話に応答できたか」を示す指標です。一般的には「20秒以内に80%応答」などの目標が設定されており、対応スピードに着目したKPIとして活用されています。
“つながりやすさ”を示す指標には応答率もありますが、応答率が「出られたか」なのに対し、SLは「どれだけ待たせずに出られたか」を評価できる点が大きな違いです。
SLが低下する原因としては、人員不足・入電の集中・AHT(平均処理時間)の増加などが挙げられます。応答率の悪化と連動しているケースも多いため、まずは現場の状況を把握し、入電予測に応じた要員配置やAHTの見直しといった対策を講じる必要があります。
SLは顧客満足度への影響が大きいため、継続的なモニタリングと早期の改善対応が重要です。
▼SL(サービスレベル)に関する記事はこちら
「コールセンターのSL(サービスレベル)とは?KPI設計から運用改善まで徹底解説」
ASA(平均応答速度)とは
ASA(平均応答速度)は、電話が着信してからオペレーターが応答するまでの平均時間を表す指標です。裏を返せば「お客様がどれだけ待たされたか」を示す数値であり、顧客体験に直結する重要なKPIです。
SLが「一定時間内に応答できたか」を割合で示すのに対し、ASAは「平均でどれだけ待ったか」を時間で可視化します。企業によってはIVR(自動音声応答)や自動ガイダンスの時間も含めて計測する場合があります。
ASAの悪化要因は、SLや応答率と共通しており、オペレーター不足やAHTの長期化、呼量の急増などが挙げられます。そのため、ASAの改善にも適正な人員配置や応答体制の見直しが求められます。
FCR(一次解決率)とは
FCR(First Call Resolution/一次解決率)は、お客様の問い合わせが初回の対応で解決した割合を示す指標です。対応の“スピード”だけでなく、“質”まで含めて評価できるKPIとして、多くの企業で注目されています。
仮につながるスピードが早くても、何度も問い合わせが必要になれば、顧客満足度は低下し、センター側の負荷も高まります。FCRが高いということは、それだけスムーズかつ的確な応対ができている証拠と言えます。
また、1回の通話だけで問題を完全に解決することが難しい窓口もあります。
このように即時解決が難しい業務の場合は、「一回の電話で完結できる範囲」をあらかじめ定義し、それを満たした時点で一次解決とみなす運用をしている企業もあります。
改善には、スクリプトやナレッジの充実、オペレーターの教育などが効果的です。FCRは顧客満足度と業務効率の両面に影響を与える指標として、バランスよく運用していくことが求められます。
効率・生産性に関するKPI
KPI項目 | 概要 | 算出方法 |
稼働率 |
オペレーターのログイン時間 |
(会話時間+後処理時間 |
AHT (平均処理時間) |
1コールあたりの通話開始から |
(総通話時間+総後処理時間 +総保留時間)÷ 総応答呼数 |
ATT (平均通話時間) |
1コールあたりに要する通話時間の平均のこと。 |
総コール数 ÷ 総通話時間 |
ACW (平均後処理時間) |
1コールあたりに要する後処理 |
合計後処理時間 ÷ 総応答呼数 |
CPC (1コールにかかるコスト) |
1コンタクト当たりに要した コストを示す指標のこと。 |
コールの処理件数 |
稼働率とは
「稼働率」は、「給与が発生している時間内で、どれだけ顧客対応に時間を割けたか」を表す指標です。つまり、稼働率が高いと多くの顧客対応ができている状態だと言えます。
稼働率に含まれる時間を「生産時間(=お客様対応している時間)」 含まれない時間を「非生産時間(=待機時間や研修、面談など)」と呼びます。より効率的なセンター運営を目指すため、稼働率を適切に保てるように管理していく必要があります。
ただし、稼働率は高ければ高いほどいいわけでないというのがあります。非生産時間には研修や面談といった時間も含まれており、オペレーターへの教育やセンター全体に周知を行うためには、非生産時間も確保しなければなりません。
そういった非生産時間を確保せず、無理な運営を続けると、教育不足によるオペレーターの質の低下、オペレーターのモチベーションの低下が起き、応対品質の低下や顧客満足度の低下に繋がるという事態も考えられます。
そのため、自社の稼働率はどれくらいが目標になるのかを設定したうえで、稼働率の上がり下がりを数値だけでなく、内容を把握したうえで適切にコントロールする必要があります。
AHT(ACW、ATT)とは
「AHT(平均処理時間)」は、「1通話を対応するにあたってかかった時間」を表す指標です。AHTは細かく分けると、「ATT(平均通話時間)」「ACW(平均後処理時間)」に分けられます。
(算出式)AHT=ATT+ACW
「ATT(平均通話時間)」は「1通話に要する通話時間の平均」「ACW(平均後処理時間)」は「1通話に要する後処理時間の平均」を表す指標になります。
業務内容によってセンターの目標は変わりますが、一般的にはAHT(平均通話時間)が短いほど一人あたりに処理できるコール数が増えSL(サービスレベル)が上がるため、短縮を目指して改善を行います。顧客の満足度はSL(サービスレベル)に左右されるため、AHT(平均通話時間)を短縮し高い顧客満足度を維持するためにも不可欠です。
また、AHT(平均処理時間)が短縮できると、一人あたりの対応件数が増加します。そうすると、オペレーター人数を削減し、人件費を抑えることができるため、コスト削減対策や生産性向上においても、コールセンターにとってAHTの短縮が検討課題になることが非常に多いです。
ただし、AHT(平均通話時間)だけのことを考えて短縮を考えると、顧客満足度が下がる可能性があることを考慮しなければなりません。
特に通話時間の短縮は注意が必要で、短縮のため通話を早く終わらせようとするあまり早口になる、顧客からのレスポンスを待たずに話を進める、といった行動はCS(顧客満足度)の低下につながります。
そのため、AHT(平均通話時間)を短くするためにはまずはACW(平均後処理時間)から対策するのが定石になります。ここ数年、音声認識ツールや入力補助ツールが発展してきているので、それらを利用してACW(平均後処理時間)を短くすることが対策として考えられます。
▼関連記事はこちら
「【徹底解説】CPH・ATT・AHTとは?|コールセンターの生産性指標と改善方法」
CPCとは
「CPC(コスト・パー・コール)」は「1コールにかかる費用」を表す指標です。
費用とは、人件費や通信費、家賃などを含めた総費用のことを指すことが多いですが、中には変動の激しい人件費のみを考慮する場合もあります。経営指標として最も重要視されるKPIの一つで、経営側も注目度の高い指標です。
費用の中でも人件費が大きく割合を占め、かつ変動が激しい費用でもあるため、CPC(コスト・パー・コール)が上昇トレンドにある場合は、人件費に起因している可能性が高いです。
削減の施策はシステム面の強化や業務フローの見直しによる処理時間の効率化、センターの地方移転やアウトソーサーの変更などがあります。
顧客満足度に関するKPI
KPI項目 | 概要 | 算出方法 |
CS (顧客満足度) |
企業が提供する商品やサービスに対する顧客満足の度合いのこと。 |
ー |
NPS (顧客推奨度) |
企業やブランドに対する愛着・信頼 |
(推進者−誹謗者)÷全体数 |
CSとは
「CS(顧客満足度)」は「企業が提供する商品やサービスに対する顧客満足の度合い」を表す指標です。アンケート調査などを実施することで「お客様の声」を客観的にデータ化・分析し数値化します。
商品開発やサービスの質の向上に反映させ、リピーター増やすことで最終的に利益アップを目指します。悪化する原因には、「なかなか繋がらない」「オペレーターの対応が悪い」「一回での解決に至らなかった」などが考えられます。
センターとしては、まずはお客様を待たせないために、システムの導入、効率的なオペレーション、適切な人員配置を行う必要があります。
また、オペレーターの対応品質を上げるための研修(商品知識を身に着ける座学やロールプレイングなど)や、管理者によるオペレーター支援(回答のサジェストによる一次解決率の向上やクレーム対応など)を行い、CSの向上を図っていきます。
NPSとは
「NPS(ネットプロモータースコア)」は「企業やブランドに対する愛着・信頼・他者への推奨の度合いなどを数値化することで、顧客ロイヤリティを評価する手法」を表す指標です。
計算式は下記で求められます。
(推進者-誹謗者)÷全体数
NPS(ネットプロモータースコア)では、企業(あるいは、製品、サービス、ブランド)を友人や同僚に薦める可能性を0~10点で回答してもらいます。
それぞれ点数に応じて、10~9点:推奨者(プロモーター)、8~7点:中立者(パッシブ)、6~1点:批判者(デストラクター)にカテゴリ分けを行います。
近年、CS(顧客満足度)調査の代わりとなる指標として、計測する企業が増えてきました。 同じく顧客の不満や課題を見つけるための手段であることは変わりませんが、NPSは業績との相関が高いことが立証されており、収益性とより密接に結びついている点が異なります。
▼関連記事はこちら
「NPS®(ネットプロモータースコア)とは?コンタクトセンターでの計算方法や運用方法を解説記事」
マネジメントに関するKPI
KPI項目 | 概要 | 算出方法 |
欠勤率 |
あらかじめシフト割り付された・スケジュールされた就業日数に対して、欠勤した日数の割合のこと |
欠勤日数 ÷ あらかじめシフト 割り付された就業日数 × 100 |
離職率 |
在籍人数に対する離職者の割合のこと |
当該期間の離職者数 ÷ 当該期間の総在籍者数 × 100 |
欠勤率とは
「欠勤率」は、「あらかじめシフト割り付された・スケジュールされた就業日数に対して、欠勤した日数の割合」を表す指標です。
欠勤率が悪化する理由として、「心理的な要因」と「身体的な要因」が考えられます。心理的な要因は、繁忙期の疲労や人間関係(特に管理者の方々との)や業務のストレス、モラルの欠如などがあげられます。身体的な要因は、職場環境(空気の乾燥や換気など)や流行風邪、長時間等労働などが要因になります。
どちらもデータ上だけでは要因の特定は難しく、現場を見ないことには要因が特定しづらく、対策もできません。
また、欠勤率悪化が続くと、出勤しているオペレーターへの負担も大きくなり、さらに欠勤者を増やすという負のスパイラルに陥ります。そのため、早期に改善が必要となります。
改善のポイントとしては、欠勤者の欠勤理由の真因をつかむことと、センター全体として改善に取り組んでいる姿勢を見せることです。オペレーターに要求するだけでは逆に退職に繋がってしまうなど逆効果の可能性が高いので、センシティブに対応する必要があります。
離職率とは
「離職率」は、「在籍人数に対する離職者の割合」を表す指標です。離職率は「外的要因」と「内的要因」に分類できます。
外的要因は、求人倍率の高騰に伴い人材の流動性が高まったり、近くに自社センターより条件の良いセンターができたり、その地域の労働者人口の減少等が考えられます。内的要因は、職場環境悪化や、業務内容、条件の変更、人事制度の問題などがあげられます。
外的要因に対するリスクヘッジはしながらも、早急に対策すべきは内的要因になります。最近ではES(従業員満足度)向上のための施策や、エンゲージメントを高めるための施策に取り組む企業が増えています。
施策には従業員アンケート調査や、360度評価、1on1面談、ファミリーデーなどがあります。
まとめ
今回はコールセンター運用において基本となるKPIについて解説しました。
KPI管理はコールセンター運営において非常に重要な業務です。ただし、KPI管理を徹底するあまり、本来の目的を失い、数字を管理するだけが優先されてしまうこともあります。
「なんの為のKPIなのか」を常に意識して、管理していく姿勢が管理者には求められます。本記事がコールセンター運営の参考になれば幸いです。
コンタクトセンターの運営課題をお持ちのご担当者さまへ
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Writer編集者情報
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コネナビ編集部 吉田 章孝
2011年、株式会社セントメディア(現:株式会社ウィルオブ・ワーク)に入社。
3年目に支店長として支店の新規立ち上げを経験。その後は札幌支店長として着任し、2年間で売上倍増に貢献する。
その後、首都圏管轄マネージャに着任し、営業推進部へ異動。営業推進部では、金融系プロジェクトチームの立ち上げや、部内重点顧客の本部営業などを担当。
2020年4月より、営業推進部 部長として、本部営業や社員教育、求人広告や転職支援チームなどを担当。現在は本部営業をメインに担当。
・趣味:散歩、語学
・特技:料理