ナレッジマネジメントとは│コンタクトセンターにおける最適な導入ステップを解説
2024/11/14
- 品質向上
- 従業員満足度向上
- 教育・育成
- 業務効率化
- 生産性向上
近年、働き方改革や終身雇用制度の崩壊といった変化により、ナレッジマネジメントが注目を集めています。社員の流動性が高まる中、知識やスキルの継承が困難になっており、生産性向上と競争力を維持するためにもナレッジマネジメントの導入が不可欠です。
本記事では、ナレッジマネジメントの基本概念、必要とされる背景や導入ステップについて詳しく解説します。
ナレッジマネジメントとは?
ナレッジマネジメントの定義
ナレッジマネジメントとは、組織内で知識やノウハウを共有し生産性向上を図る戦略のことです。個人のノウハウや組織のナレッジを適切に管理し活用することで、情報の価値を最大化し、組織全体の競争力を高めることができます。
ナレッジマネジメントの代表的な手法には、以下の4つがあります。
- 経営資本・戦略策定型(知的資本蓄積型)
- 顧客知識共有型
- 顧客知識共有型
- ベストプラクティス型
経営資本・戦略策定型(知的資本蓄積型)とは
この手法は、組織内外のナレッジを集中させ、経営戦略の見極めや業務プロセスの改善に活用します。他社の成功事例も参考にしながら、自社の知的資本を蓄積し、戦略的な意思決定をサポートします。
具体例: ・過去の顧客対応データを分析し、その結果をもとに新しい戦略の策定や業務フロー改善など
顧客知識共有型とは
顧客の個人情報や対応履歴などを一元管理し、顧客サービスの質を向上させる手法です。顧客に関する知識を組織全体で共有することで、より効果的な顧客対応が可能になります。
具体例:
・顧客の購入履歴やサポート履歴を全社で共有し、パーソナライズされた対応を行うことで、顧客満足度の向上と、リピート率を向上させる
・顧客対応における応対マニュアル共有など
ベストプラクティス型とは
組織内の優秀な社員の行動や成功パターンを分析し、形式知化して共有する手法です。成功したプロセスや方法を全ての従業員が学び、ナレッジを活かすことで組織全体の業績向上に貢献します。
具体例:
・コンタクトセンターの優秀なオペレーターの対応や成功事例を文書化し、他のオペレーターに共有する
・営業におけるベストプラクティスのプロセスを文書化することで、他の社員が最適な営業手法を学ぶことができる
専門知識共有型とは
特定分野の専門知識やノウハウを組織内で共有し、活用する手法です。専門家の知識を効率的に共有することで、組織全体の専門性を高めることに貢献します。
具体例
・デジタル人材育成チームによる新しい技術やツールに関する専門知識の共有
・専門チームによる会社全体へのデジタル化推進活動 等
どの手法を選択するかは、組織が目指す目標(目的)を明確にし、課題を特定してから最大限効果が期待できる手法を選びます。
ナレッジマネジメント注目の背景
近年、ナレッジマネジメントが注目される背景には以下の要因があります。
終身雇用制度の崩壊と社員の流動化
終身雇用制度の崩壊により、社員の流動性が高まっています。転職することが当たり前となった昨今では、社員の退職時に個人が持つ知識が組織に残らず、持ち出されてしまう問題が多く発生しています。社員の流動性が高まり、個々が持つ知識やノウハウが組織内で継承されにくくなると、組織全体の競争力が低下してしまうのです。
働き方改革
働き方改革により、リモートワークの普及や勤務時間の選択など、労働者が自身の働き方を選択できる機会が増えてきました。働きやすさは手に入ったものの、チームや組織間でのコミュニケーションが希薄になり、ノウハウやナレッジ共有の場が激減したことも要因のひとつとしてあげられます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進により、デジタル技術を活用した業務プロセス革新の動きが加速しています。ナレッジマネジメントは、クラウドベースのシステムやAIを活用するため、DX化推進との相性が抜群に良いこともひとつの要因と言えるでしょう。
ナレッジマネジメントは、労働市場の変化や、DX化推進によって、ノウハウやナレッジの持続的な蓄積と共有を促進する重要性が増しているのです。競争に打ち勝つための経営手法として重要視されていることが、注目される背景です。
ナレッジの種類
ナレッジマネジメントにおいて、知識は大きく「暗黙知」と「形式知」に分類されます。この章では、それぞれの特徴と、組織内でどのように相互補完的に利用されるかについて解説します。
暗黙知とは
暗黙知(タシットナレッジ)とは、個人の経験やスキルに基づく知識で、言語化や形式化が難しいものを指します。
例として、営業担当者の顧客との信頼関係の築き方、コンタクトセンターのオペレーターの優れたクレーム対応スキル、人材採用での面接官が持つ応募者の適性を見抜く力などがあります。これらの知識は直接文書化するのが難しいため、OJT研修の場や、経験を通じて学ぶことが多いです。
形式知とは
形式知(エクスプリシットナレッジ)は、文書化や数値化され、他者に共有することができる知識を指します。身近な形式知でいうと「マニュアル」があげられます。
形式知は、具体的で標準化された形で表現されるため、組織内での共有がスムーズな点が特徴です。
例として、コールセンターの対応マニュアルやFAQリスト、月次業績レポート、人材採用プロセスマップなどがあります。形式化されたマニュアルをクラウド上に保管して共有することで、いつでも誰でもアクセスでき理解を深めることができます。
暗黙知と形式知の違いと関係
暗黙知と形式知は互いに補完し合い、組織のナレッジ管理において重要な役割を果たしています。暗黙知を形式知に変換することを「形式知化する」「表出化」と言い、その逆のプロセスは「内面化」と呼ばれています。これらのプロセスはSECIモデル(共同化、表出化、連結化、内面化)として知られています。SECIモデルのプロセスがどのように循環しているのか、以下図を確認し理解しましょう。
このように、暗黙知と形式知が相互に作用することで、知識の創造と共有が進み、組織全体の知識資産が豊かになります。形式知を作り出し、それを他者が学んで新たな暗黙知を生み出す循環が、ナレッジマネジメントの核となるのです。
共同化プロセス(Socialization):暗黙知を共有し、新たな暗黙知を共同で生成するプロセスを指します。例として、対話や共同作業を通じて知識を共有することが挙げられます。 |
表出化プロセス(Externalization):暗黙知を形式知に変換するプロセスです。例として、経験や知識を文章や図解にして他の人と共有することが挙げられます。 |
連結化プロセス(Combination):形式知を整理し、新たな形式知を生成するプロセスです。例として、複数のレポートをまとめて新しいマニュアルを作成することが挙げられます。 |
内面化プロセス(Internalization):新たな形式知を学び、暗黙知として体得するプロセスです。例として、マニュアルを学ぶことで新しいスキルを身につけることが挙げられます。 |
ナレッジマネジメントの効果とメリット
ナレッジマネジメントを実践することで、具体的にどのような効果やメリットが得られるのでしょうか。以下、5項目について見ていきましょう。
業務効率の向上
ナレッジマネジメントにより、重複作業や情報の取りこぼしが減り、業務プロセスの効率化が進みます。例えば、コンタクトセンターにおいて、オペレーターが過去の事例やFAQを迅速に参照することで、顧客対応時間が短縮され、作業ミスも減少します。また、新人オペレーターへの研修時間短縮により、業務効率化ができることに加え、人件費の削減にも貢献するのです。
新しいアイデアの創出
知識が組織内で共有されることで、異なる視点やアイデアが融合し、新しい製品やサービスの開発が促進されます。例えば、新しい顧客サービスにおいて、オペレーターの成功体験から顧客満足度を向上させるための対話や議論がなされ、プラスオンのアプローチが生み出される場合があります。
組織の競争力強化
市場動向や競合他社の情報を迅速に把握し、社内に蓄積することで、最適な対応策を講じることができます。例えば、最新の顧客トレンドを把握し、自社内で最適なアプローチを取り入れたり新製品やサービスを開発したりすることで、顧客満足度の向上や競争力の強化につながるのです。
従業員の成長促進
共有された知識を学ぶことで、従業員一人ひとりのスキルが向上し、成長を促進します。個々のスキル強化により、組織全体のパフォーマンス向上につながるのです。
リスク管理の強化
適切なナレッジマネジメントにより、過去の失敗やトラブルから学んだ教訓を組織全体で共有できるため、失敗のリスクが減少します。リスク管理が強化されることにより、安定した運営が可能となります。
ナレッジマネジメントの導入ステップ
ナレッジマネジメントを効果的に導入するためには、計画的かつ体系的なアプローチが必要です。この章では、ナレッジマネジメントの導入から運用までの具体的なステップを解説します。
現状分析と課題の特定
まず、ナレッジマネジメントを導入する前に、現状の知識管理の状況を詳細に分析します。
評価項目 |
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例えば、コンタクトセンターでオペレーターが情報を迅速に見つけられないという問題を抱えている場合、次のような点を分析します。
- 情報の整理方法や検索機能に問題があるか
- 共有されている情報が古くて使いにくいか
- 必要な情報が適切に分類されているか 等
具体的な問題点を明確にしてから課題を設定していきます。
目標設定と戦略立案
次に、具体的で測定可能な目標を設定し、目標達成するための戦略を立案します。
以下、具体例と施策です。
目標設定の例 |
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目標設定の例:
「社内コミュニケーションの改善」を目標にする場合、以下の具体的な戦略を立てます。
- 社内チャットツールを導入し利用を推奨することで、部門間のコミュニケーションを活性化する
- 各部門リーダーが定期報告書を作成し全従業員に配信することで、情報の透明性と共有性を高める
具体的な戦略を立てた後、次にKPIを設定します。
例えば、社内チャットツールの利用率や定期報告書の閲覧率など、定量的に計測できる指標を設けます。これにより、実行・評価を繰り返しながら、目標達成に向けた進捗を管理し、必要に応じて改善策を講じることができます。
システムとツールの選定
ナレッジマネジメントを支援するためには、組織の規模やニーズに適したシステムやツールを選定することが重要です。以下のツールを検討してみましょう。
ナレッジマネジメントシステム・ツール |
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既存のシステムやツールがある場合は、その適合性を評価し、必要に応じて新しいツールへの切り替えも検討しましょう。
計画と進行管理
具体的な実施計画を立て、その進行状況を管理していきましょう。
- スケジュールの設定:プロジェクトのタイムラインを明確にする。
- 役割分担と責任者の明確化:各タスクの担当者を決め、責任範囲を明確にする。
- 必要なリソースの確保:実施に必要な資源やツールを準備する。
- 定期的なレビューとフィードバック:進行状況を定期的にチェックし、改善点を見つける。
これにより、組織全体で効率的な知識管理が可能になり、業務の質が向上します。
ナレッジマネジメントは一度導入して終わりではなく、継続的なフィードバックと改善が重要です。このサイクルを繰り返すことで、常に最適な状態を保つことができるようになります。
ナレッジマネジメントの実施上の課題と解決策
ナレッジマネジメントを導入する際、いくつかの問題に直面することが考えられます。ここでは、主な問題点とその解決策について説明します。
全社的な意識づけと体制づくり
ナレッジマネジメントを効果的に進めるためには、全社員に対して意識づけを行い、協力してもらうための体制づくりが重要です。社員全員がナレッジマネジメントの価値と重要性を理解し、積極的に参加するよう促すために、以下の施策を実施しましょう。
- 経営層からのメッセージ発信:経営層が率先してナレッジマネジメントの重要性を強調し、従業員全員にその意義を伝える。
- 研修やワークショップの開催:社員にナレッジマネジメントの基本的な概念やツールの使い方を教育し、知識を深める。
- 社内コミュニケーションの強化:ナレッジマネジメントの進捗や成果を定期的に共有し、全社的な取り組みを促進する。
モチベーションとインセンティブの構築
従業員がナレッジマネジメントに対して高いモチベーションを持ち取り組むためには、知識共有に対して報酬や評価を提供する仕組みが必要です。また、成功事例を共有することで、知識共有の文化を育成します。知識を共有した従業員を定期的に表彰し、成功事例を社内で紹介する取り組みが効果的でしょう。
技術的な問題とその対策
システムの問題やデータ保存の不安定さなど、技術的な問題が生じることがあります。これに対しては、使いやすいシステムの導入や、確実なデータバックアップ体制を整備することが重要です。例えば、直感的なユーザーインターフェースを持つシステムを選択し、クラウドベースのバックアップを定期的に実施しましょう。
ナレッジマネジメントのまとめ
ナレッジマネジメントは、企業内に蓄積された知識をうまく収集し、共有し、活用するための戦略です。これにより、生産性の向上や迅速な意思決定、新しいアイデアの創出、競争力の強化などが期待されます。
導入時には現状分析、課題の特定、戦略の立案、適切なツールの選定、実施計画の策定が必要となり、組織全体で取り組むプロジェクトとして社員の意識づけも重要となります。ナレッジマネジメントを通じて、組織全体が持つ知識を最大限に活用し、持続的な成長を目指していきましょう。
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