【活用事例】AIエージェントでコールセンターはどう変わる?先進企業から見える現状と課題を徹底分析
2025/06/04
- システム導入

2025年は「AIエージェント元年」と呼ばれ、OpenAI、Meta、マイクロソフトなど世界中のビッグテック企業が次世代AI技術として注目しています。日本でも、ソフトバンクが大々的に自律思考型AIを提供開始するなど、国内ベンダーの本格参入が始まっています。
従来の定型的な自動応答を超え、自律的に判断・行動するAIエージェントは、コールセンター業界の人材不足や品質のばらつきといった構造的課題の解決策として期待されています。しかしながら、注目とは裏腹に具体的な事例が少なく、現状どこまでできているのか不明確な部分も多くあります。
本記事では、このAIエージェント導入の最前線で何が起きているのか、先進企業の具体的な活用事例を紹介します。
AIエージェントとは何か
AIエージェントとは、自律的に判断・行動し、与えられた目標を達成する人工知能システムです。大量のデータで訓練された大規模言語モデル(LLM)などの生成AIを核に、必要に応じて外部ツールやデータベースを活用しながらタスクを遂行します。
従来のAIと新しいAIエージェントの違いを旅行予約で考えてみましょう。
- 従来のAI(生成AI): 「東京から大阪への旅行プランを教えて」と聞くと、交通手段や観光地の提案をテキストで回答する
- AIエージェント: 同じ質問に対して、提案を行った後、実際にホテルの空室を検索し、新幹線の予約を取り、支払い処理まで自動で実行する
AIエージェントは「代理人」として、ユーザーは結果を待つだけでよく、従来の手間が完全に排除されるという点が大きな特徴です。
コールセンターにおけるAIエージェントの位置づけ
コンタクトセンター分野での生成AI活用も進化しています。2024年までは通話内容の要約生成といった限定的な活用が主流でしたが、2025年からは対話そのものをAIが担う段階に踏み込むと期待されています。
また、コールセンターにおいて、AIエージェントは単なる「回答マシン」ではなく、顧客の問題を完結まで導く自律的なパートナーとして機能することが期待されています。従来の生成AIは人間からのプロンプトに応じて回答を返す受動的な使われ方が中心でしたが、AIエージェントは人間の指示がなくとも目標に向けて能動的に動くことができます。
従来の生成AIとAIエージェントの違いの一例を表にまとめると以下です。
従来の生成AI | AIエージェント |
---|---|
FAQ回答の生成 | 回答+システム操作の実行 |
通話内容の要約作成 | 要約+関連部署への自動転送 |
定型的な応答文の提案 | 状況判断+最適な処理の実行 |
実行まで進むことで本格的な有人対応の削減が期待されています。
AIエージェントの現在地と期待値
AIエージェントへの期待は、確固たるデータに裏付けられています。
調査会社Markets and Marketsによれば、世界のAIエージェント市場規模は2024年から2030年に9倍以上になるとの予測が示されており、ガートナーの分析では「カスタマーサービスは生成AI投資が最も進んでいるトップ3領域の一つ」とされ、2025年には問い合わせの最大65.7%がAIで解決されるとの予測も出ています。
AIエージェントの実力を最も象徴的に示すのが、米国のAIスタートアップCognitionが発表した世界初の自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin」です。Devinは従来のAIアシスタントのような人間の指示にその都度応えるサポート役にとどまらず、自ら判断して作業するワーカーとして機能します。
なぜコールセンターでのAIエージェント活用が注目されるのか
AIエージェントの適用先として、コールセンターが特に注目を集める理由は明確です。
まず、構造的課題の深刻さが挙げられます。厚生労働省の「令和6年上半期雇用動向調査結果の概要」によると、コールセンター業が該当する「サービス業(他に分類されないもの)」の離職率は10.9%で、ほかの産業と比べて3番目に離職率が高く、人材不足が深刻であることがわかります。
次に、業務の標準化しやすさという特性があります。コールセンター業務は比較的パターン化されており、AIエージェントが学習・適用しやすい特性を持っています。定型的な問い合わせから複雑な課題解決まで、段階的な導入が可能です。
さらに、投資対効果の可視化がしやすいという点も重要です。コンタクトセンターがAI導入の実験場と位置付けられるほどAIエージェントへの期待が高まっている背景には、効果測定がしやすく、ROIが明確に示せる点があります。
国内外のAIエージェント最新事例
ソフトバンクが切り拓く「自律思考型AI」:X-Boost
コールセンター向けAIエージェントの最前線で注目されているのは、ソフトバンクグループのGen-AX株式会社です。ソフトバンクグループや三井住友カードのコンタクトセンターでプロジェクトが進行しており、同社の砂金信一郎CEOが語る「自律思考型AI」は、コールセンター自動化の具体的なアプローチとなりうるか注目されています。
Gen-AXが提供する「X-Boost」は、従来の「フロー追従型」システムとは一線を画します。決められた順序と固定化されたスクリプトで応対する従来型に対し、X-Boostは顧客との会話内容に応じて、LLM(大規模言語モデル)が必要な機能やデータソースを自ら参照する「自律思考型」のシステムとして設計されています。
特に画期的なのは、AIが業務の中で「自律的に賢くなる」仕組みです。砂金CEOは「質問に対してLLMが『これは今回のケースに当てはまる』といった必要な情報を自分で判断して選択し、『こういうふうにお客さまに答えを返してください』という応対文がAIで生成される」と説明しています。
X-Boostのもう一つの特徴は、過去のオペレーターの応対履歴などのデータを継続的に学習し、顧客対応の性能を向上させ続ける点です。従来のアノテーション作業では専門的な業務知識を持たない人が形式的に行うことが多く、現場の知識を反映しにくいという課題がありましたが、X-Boostでは現場業務の中でアノテーションが行われるプロセスを構築しています。
サイバーエージェントグループの特化型AIエージェント:AI Messenger Voicebot
AI Shift株式会社が手がける「AI Messenger Voicebot」の大幅リニューアルも、業界に大きなインパクトを与えています。同社のアプローチは「特化型AIエージェント」の活用にあり、コールセンターにおける対話構造を「用件特定」と「タスク解決」の2種類に分けて、それぞれに最適化されたAIエージェントを配置しています。
結果的に、従来型と比較して不要な会話のラリーを55%削減し、より快適な顧客体験を実現しています。これは、従来のボイスボットがあらかじめ設定されたヒアリング順序に沿って進む一方的な対話であったのに対し、各シーンにあわせた特化型AIエージェントの活用により、ユーザー主導の自然な対話が可能になったためです。
また、従来のボイスボットは複雑な用件を特定する能力がなく、顧客からの申告に依存せざるを得ない状況でした。しかし、用件特定エージェントが音声認識結果から利用者の真の意図を理解し、対話を進めることが可能となったことで、自動化の範囲が大幅に拡大しています。
グローバル企業の先進的取り組み
Google:Contact Center AI (CCAI)
Googleは自社のクラウドサービス「Google Cloud」の一機能として、Contact Center AI (CCAI)を提供し、AIを活用した顧客対応の自動化と効率化を目指しています。このサービスには対話型音声ボット「Dialogflow CX」やエージェント支援機能「Agent Assist」などが含まれており、多くのコンタクトセンターで採用されています。
2025年5月にリリースされたバージョン3.35では、チャットセッションイベントの外部品質管理(QM)システムへのリアルタイムエクスポート機能が実装されました。この新機能により、エージェントのパフォーマンス分析や顧客対応の質の向上が期待されています。
さらにGoogleは、「Gemini」と呼ばれる高度なAIモデルを活用し、顧客との対話からインサイトを抽出して行動を自動化する機能を提供しています。これにより顧客対応の精度と効率が向上し、企業のサービス品質向上に大きく寄与しています。
Salesforce:Agentforce
SalesforceはAgentforceを中心としたAIエージェント戦略を業界内でもいち早く展開を開始しました。Agentforceは、CRMプラットフォーム上で動作するAIエージェントとして、企業の業務プロセスの自動化と効率化を支援しています。2025年4月には「Agentforce 2dx」が正式リリースされ、AIエージェントの構築、テスト、デプロイが飛躍的に容易になりました。
業種別の対応も充実しており、金融、医療、HRなどの分野向けに特化したAIエージェントテンプレートが提供され、迅速な導入を可能にしています。AgentforceはSlackとの密接な統合により、従業員が日常的に使用するプラットフォーム上でAIエージェントと協働できる環境を実現しています。
市場での成果も顕著に現れており、2025年初頭までにAgentforceは3,000社以上の有料顧客を獲得し、Data CloudおよびAI製品からの年間経常収益は10億ドルを超えました。ただし、Agentforce単体での収益貢献はまだ限定的であり、本格的な収益化は2027年度以降と予測されています。
戦略的な動きとして、Salesforceはデータ統合企業Informaticaの買収を発表しており、これによりAIエージェントの強化を図っています。この買収により、よりクリーンで統合された顧客データの提供が可能となり、Agentforceの性能向上が期待されています。
AIエージェント実現の技術的課題と突破口
コールセンターでAIエージェントを実現する最大の技術的課題は、既存の業務システムとの複雑な統合です。現代のコールセンターは、CRM(顧客関係管理)システム、問い合わせ管理システム、FAQデータベース、在庫管理システム、請求システム、さらには基幹業務システムまで、多岐にわたるシステムが相互に連携しながら業務を支えています。
従来のアプローチでは、システムごとに個別のAPI統合が必要でした。認証方法、データ形式、エラー処理などをそれぞれ個別に実装する必要があり、開発効率が極めて低い状況でした。
また、どのAPIを使うのか、どのような順序で処理を行うのかといった判断には、その業界や企業特有の深い知識が不可欠です。例えば保険業界のコールセンターでは、「事故の受付」という一つの業務だけでも、事故の種類、契約内容、過失の有無、損害額の算定など、多数の要因によって処理フローが変わります。
Model Context Protocol(MCP)による革新的解決策
こうした課題を解決する画期的な技術として、2024年11月にAnthropic社が発表したModel Context Protocol(MCP)が注目されています。MCPは「AIアプリケーションのためのUSB-Cポート」とも呼ばれ、AIエージェントと外部システムの接続を標準化する革新的なプロトコルです。
MCPの最大の特徴は、様々なシステムやサービスに対して統一されたインターフェースを提供することです。従来は10種類のシステムと連携したい場合、10種類の個別API統合が必要でしたが、MCPを使えば、一度MCPクライアントを実装するだけで、MCP対応の全てのサービスと簡単に連携できるようになります。
現在、一部の開発ツールがMCPをサポートし始めており、今後はより多くの開発ツールがこの標準を採用すると予想されます。既に様々なMCPサーバーが公開されており、これらを活用することで、ゼロから開発することなく、AIエージェントを簡単に拡張することが可能になっています。
まとめ
2025年は確実に「AIエージェント元年」として歴史に刻まれるでしょう。OpenAI、Meta、マイクロソフトといった世界的企業が注目し、市場規模も2030年に向けて9倍以上の成長が予測されています。
しかし、現実を見ると、AIエージェントはまだ本格的な実装段階には到達していません。コールセンター業務全体を包括的にカバーする本格的なAIエージェントの実装例はまだ数少ないのが実情です。
技術的な課題も依然として存在します。業務システムとの複雑な統合、深いドメイン知識の必要性、データ品質の問題など、解決すべき課題は山積しています。ただし、MCPの登場など、これらの課題に対する解決策も見えてきています。
現在の状況を総合すると、AIエージェントは本格的な発展の入り口に立っている段階です。技術的なブレイクスルーと実用的なソリューションが次々と登場する今、この変革の時代において、私たちは今後も最新の動向、成功事例、そして課題と解決策について継続的に情報をお届けしてまいります。ぜひ今後の情報発信にもご注目ください。
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