カスタマーハラスメントからオペレーターを守る!│コールセンターでの発生原因や対応策を解説
2025/05/07
- 従業員満足度向上

近年、コンタクトセンターにおいて、カスタマーハラスメントは大きな問題になっています。カスタマーハラスメントが起こると、従業員のモチベーションや健康にも悪影響を及ぼすことがあり、離職率の上昇などに繋がる恐れがあります。人材不足が懸念されるコンタクトセンター業界にとっては避けたい事態です。
本記事では、コンタクトセンターにおけるカスタマーハラスメントの実態を紹介し、どのように対策すべきかをご紹介します。コンタクトセンターの管理者は、オペレーターを守るためにもカスタマーハラスメントの原因、影響、予防と対応の戦略を理解することが大切です。
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カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客が客である立場を利用してオペレーターに攻撃的な言動や態度をとったり、理不尽な要求を行うことです。
コールセンターでは日々多種多様な顧客の声が寄せられます。中にはサービスや企業に対して厳しい声が寄せられることもあり、クレーム対応はコンタクトセンターの一つの役割でした。こういったクレームや苦情には、サービス改善や従業員の教育に繋がる意見もあり、一概にネガティブな要素だけではありません。
しかし、近年消費者に有利な法律やコンプライアンス整備が進んだことや、SNS等で消費者側の発信力が高まったことから消費者の立場が強くなっています。その結果、消費者の権利意識および要求レベルが高まったことにより、行き過ぎた暴言や嫌がらせに繋がっているケースがあります。特に、コンタクトセンターは対面ではないということもあり、他の職場よりもカスタマーハラスメントが発生しやすい環境になっています。
コンタクトセンターで働く従業員は、お客様の問題を解決するために最善を尽くしており、このようなカスタマーハラスメントを受けることでストレスや不安を感じることがあります。
カスタマーハラスメントの具体例
具体的には暴言や罵倒、嫌がらせや脅迫、長時間の拘束などがあります。また、妥当性を欠く不当な要求(謝罪要求や賠償要求)などもカスタマーハラスメントの一例です。以下は、厚生労働省が企業向けに提供しているカスタマーハラスメントの対策マニュアルに記載されているカスタマーハラスメント例の一覧になります。
「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例 | 企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合 | |
要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合 | ||
「要求を実現させるための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例 | (要求内容の妥当性にかかわらず不相当される可能性が高いもの) | 具体的な攻撃(暴行,傷害) |
精神的な攻撃(脅迫,中傷,名誉毀損,侮辱,暴言) | ||
威圧的な言動 | ||
土下座の要求 | ||
継続的な(繰り返される)執拗な(しつこい)言動 | ||
拘束的な言動(不退去,居座り,監禁) | ||
差別的な言動 | ||
性的な言動 | ||
従業員個人への攻撃、要求 | ||
(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの) | 商品交換の要求 | |
金銭補償の要求 | ||
謝罪の要求(土下座を除く) |
クレームとどう区別すべきか
どこまでをクレームとし、どこからをカスタマーハラスメントとするかの判断基準は明確なものがなく、企業によってまちまちです。また、法律に抵触するかどうかのラインも明らかに抵触するものからケースによって異なるグレーゾーンが存在します。
クレームとカスタマーハラスメントの境界線が曖昧な分、真摯に顧客に向き合おうとするオペレーターほどカスタマーハラスメントの被害を受けやすくなります。企業としてはオペレーターが個別判断で迷ったり不安にならないよう、明確な基準を設けておくべきでしょう。(対策については後ほど言及します)
カスタマーハラスメントの実態
厚生労働省の職場のハラスメントに関する実態調査(2024年1月)によると、従業員から過去3年間で相談があったと回答した企業の割合は、パワーハラスメント、セクシャルハラスメントに続いてカスタマーハラスメントが多い結果でした。また、カスタマーハラスメントは他のハラスメントと違い、唯一件数がここ数年で増加しています。
また、受けた行為の内容としては「継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動(頻繁なクレーム、同じ質問を繰り返す等)」が72.1%と最も多く、「威圧的な言動(大声で責める、反社会的な者とのつながりをほのめかす等)」、「精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言、土下座の要求等)」と続きます。

コンタクトセンターでのカスタマーハラスメントの実態
特に、対面よりも非対面のコンタクトセンターではハラスメント行為に及ぶハードルが低いため、通常の職場より発生しやすいといえます。また、ここ最近ではコロナの影響もあり、実店舗での接客、対応機会が減っていることもあり、今まで実店舗で解決していたものがコンタクトセンターに流れているような状況もあります。加えて、人材不足等で応答率が下がっているコンタクトセンターでは、顧客満足度の低下と相まって、ハラスメントが発生しやすい状況に陥っています。
コンタクトセンターでは物理的な攻撃はないものの、言葉による暴力や不当な請求などが発生する可能性があります。先にあげたハラスメントの例では「精神的な攻撃(脅迫,中傷,名誉毀損,侮辱,暴言)」や「継続的な(繰り返される)執拗な(しつこい)言動」「威圧的な言動」「不当な商品交換・金銭補償の要求」などが考えられます。いずれも、従業員へのダメージはもちろん、センター全体への被害も発生しうるため、対策が必要です。
カスタマーハラスメントに対処すべき理由
ここではコンタクトセンターとしてカスタマーハラスメントに対処すべき理由を紹介します。カスタマーハラスメントを放置すると様々な課題を引き起こします。
離職率や欠勤率の上昇
カスタマーハラスメントは従業員への精神的負荷が非常に大きいです。厚生労働省の調査によると、カスタマーハラスメントが及ぼす影響のトップ3は以下となっています。
- 1位:ストレス増加
- 2位:業務遅延
- 3位:仕事意欲の低下
特に1位の「ストレス増加」は約9割が影響があると答えております。当然、ストレスの増加は従業員の健康状況に被害が出ますし、3位の「仕事意欲の低下」にも繋がってきます。そのことが離職や欠勤に繋がり、応答率の低下が発生し、顧客満足度が下がり、またカスタマーハラスメントが発生するといった負の循環に陥ります。今いる社員の離職に止まらず、採用市場での採用力低下にも繋がります。
応答率の低下や業務の停滞
先ほどのランキングで2位に「業務遅延」が挙げられていたとおり、カスタマーハラスメントが発生すると、通常業務が停滞する恐れがあります。カスタマーハラスメントは長時間の拘束行為があったり、説明等が必要になったりと通常の応対よりも時間がかかる可能性が高いです。また、エスカレーション対応なども発生すると管理者の業務も停滞し、センター全体の生産性が下がる恐れもあります。
そうなると、コンタクトセンターの重要指標である応答率が低下し、他の顧客にも迷惑をかける、顧客満足度が下がるといった問題にまで発展していきます。
ブランドイメージの損失
カスタマーハラスメントの対応は間違えると、悪評が広がってしまうリスクがあります。現在はSNSで誰でも発信できる時代です。投稿内容が事実と異なっても企業のイメージを傷つけてしまう恐れがあります。
また、顧客ではなく、カスタマーハラスメントを受けたオペレーターが、顧客や対応しない企業への不満や怒りをSNSや口コミで発信した場合、その企業のブランドイメージが損なわれることがあります。
大前提センターはカスタマーハラスメントからオペレーターを守る義務がある
もろもろカスタマーハラスメントがセンターや企業に対して及ぼす悪影響について言及しましたが、大前提、企業には安全配慮義務の一環として、カスタマーハラスメント防止する措置をとる法律上の義務があります。(東京地方裁判所平成11年4月2日判決等)
この義務を疎かにすると、安全配慮義務違反になる可能性があり、被害を受けた従業員に対して企業が損害賠償責任を負うケースもあります。
そのため、カスタマーハラスメントの発生を仕方ないものとして対処せずにいることはできません。
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カスタマーハラスメントにどう対応すれば良いか
ここまでカスタマーハラスメントの概要やその影響について解説しました。前述したとおり、経済的な損失のみならず、社会的な信頼の損失や、そもそも法律としてもカスタマーハラスメントに対処する必要があることをお伝えしましたが、実際にどのように対応すれば良いのかを解説します。
カスタマーハラスメントの対策のフレームワーク
カスタマーハラスメントというリスクを最小化するためには「発生する頻度を下げるか」と「発生した際の影響を小さくできるか」の2つにかかっています。また、「発生前」「発生時」「発生後」のフェーズごとでそれぞれ2つのリスク要因に対して何ができるかを整理しておくとよいでしょう。
以下はフレームワークでまとめた対策の一例です。

発生前に行う対応が最も重要
カスタマーハラスメント対策では、「発生前の対応」が最も重要です。
一度発生してしまうと、対応には多くの時間と精神的な負担がかかります。だからこそ、未然に防ぐための準備が欠かせません。
まず大切なのは、オペレーターのコミュニケーション教育です。
カスハラは、クレームが過度に発展して起こるケースが多く、初期の丁寧な対応で防げる場合もあります。ただし、過剰にへり下った対応は逆効果になりかねません。
企業としては、「カスタマーハラスメントには毅然と対応する」という姿勢を社内外に明確に示すことが重要です。
また、「通話内容を録音していること」を周知することで、抑止効果も期待できます。
発生頻度を抑える努力はしつつも、企業努力だけで完全に防ぐことはできません。インバウンド型のセンターでは、電話番号を広く公開しているため、様々なタイプの顧客が入電し、カスハラの発生をゼロにするのは現実的ではありません。そのため、発生した際に影響を最小化する努力も大切です。
具体的には、対応方針の明確化から始めましょう。
カスタマーハラスメントと正当なクレームの線引きは曖昧になりがちです。たとえば、「特定の暴言があった場合はカスハラと見なす」といったルールを設けると、現場が判断しやすくなります。
次に、方針に基づいたマニュアルの整備が必要です。
エスカレーションの基準や、発生時の対応スクリプトなどを用意しておけば、オペレーターは不安なく対応にあたれます。
(なお、カスタマーハラスメントに対しては、感情的な共感よりもマニュアルに則った冷静な対応が基本です)
さらに、相談体制の整備も忘れてはなりません。
被害を受けたオペレーターが一人で抱え込まないよう、専用の相談窓口を設けましょう。
企業としても実態を把握しやすくなり、適切な対策につなげることができます。
発生時はとにかく迅速に対応する
どれだけ事前に対策を講じていても、カスタマーハラスメントは完全には防げません。発生した際にはとにかく迅速な対応が求められます。
長引くほど、オペレーターの対応が滞り、応答率の低下などにより他の顧客にも影響が出ます。
それが新たなクレームや、さらなるカスタマーハラスメントを招く可能性すらあります。
そのため、早期の鎮静化がカギとなります。
管理者はモニタリングを徹底し、異変を察知したら速やかにエスカレーションを行いましょう。
エスカレーション先は、自社の体制に応じて以下のような選択肢があります。
- 管理者自身が対応する
- お客様相談窓口など、クレーム対応に慣れた専門部署へ引き継ぐ
- 必要に応じて外部の専門窓口につなぐ
事前に自社に合ったエスカレーション体制を整えておくことが、混乱を最小限に抑えるためのポイントです。
また、発生内容を証跡として記録に残すことも忘れてはいけません。
カスタマーハラスメントは、場合によっては法的な問題へ発展するケースもあります。
後々の備えとして、やり取りの録音や対応履歴の保存など、記録体制を整えておくことが重要です。
発生後は第一に従業員のケアを。再発防止のための対策やモニタリングも重要
カスタマーハラスメントが発生した後は、まず被害にあったオペレーターのメンタルケアを優先しましょう。マニュアルに沿って対応していたとしても、本人には大きな精神的負荷がかかっていることが多いため、管理者からの声かけや休憩の促進、必要に応じたストレスチェックなど、丁寧なフォローが求められます。
同時に、発生した背景を振り返り、経緯を記録・分析して社内で共有することも大切です。同様の事案が繰り返されている場合は、商品やサービスの品質、あるいは応対時のコミュニケーションに課題がある可能性もあります。原因を洗い出し、再発防止に向けた改善につなげていきましょう。
また、企業側のリスク対策としてSNSのモニタリングも重要です。事実と異なる投稿が拡散され、炎上につながるケースもあるため、早期に兆候を察知して対応できる体制を整えておくことが望ましいです。
さらに、場合によっては弁護士への相談が必要になるケースもあるため、万が一に備えて社内で相談先やフローをあらかじめ決めておくと安心です。
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「企業のレピュテーションリスク対策|コンタクトセンターが果たすべき役割とは」
カスタマーハラスメントに関するまとめ
今回はカスタマーハラスメントの概要や実態、影響、対策等について解説しました。
より良い顧客体験を生み出すためには、従業員満足が重要です。最近ではEX(従業員体験)を重視する企業も増えてきていますが、今回ご紹介したカスタマーハラスメントなどハラスメント系は従業員満足度を大きく低下させる要因になります。「安全・安心に働ける」はEXに取り組む企業の最低ラインです。
コンタクトセンターにおける健全な運営体制を守るためにも、企業は従業員を守る仕組みを整え、未然防止と迅速な対応に向けて、継続的に対策を進めていくことが重要です。
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