BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)完全ガイド│基本概念や注意点、効率的な進め方を徹底解説
2024/11/13
ビジネスの競争が日々激化する中、企業は業務の効率化や最適化を追求する必要に迫られています。その一助となる「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」ですが、その具体的な進め方を把握している企業はまだ少ないのが現状です。
この記事では、BPRの基本的な概念から、そのメリット、課題、主要手法、そして具体的な進め方までを詳しく解説します。これを読むことで、BPRをどのように進行すれば良いのか、そのポイントや注意点を明確に理解し、効率的な業務改革の第一歩を踏み出す手助けとなるでしょう。ぜひ、最後までお読みください。
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BPRの概念と目的
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の具体的な定義とその目的について解説します。BPRが何であり、その実施を通じて何を達成することを目指しているのかを明確に理解することが重要です。
BPRとは
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは、現在の業務内容やフロー、組織の構造などを根本的に見直し、再設計することです。1993年に刊行された『リエンジニアリング革命』(マイケル・ハマー/ジェームス・チャンピー著)によって、企業間でも広く知られることになりました。
同書ではBPRを以下のように厳密に定義しています。
「コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にそれをデザインし直すこと」
この定義から、BPRには4つのキーワードが存在します。
BPRの目的と特徴
BPRの主な目的は、ビジネスプロセスを最適化することにより、企業全体の生産性や効率性を大幅に向上させることです。生産性や効率性を高めることは高い競争力に繋がります。
BPRの特徴として、それは一部分の微調整や改善ではなく、ビジネスプロセス全体を見直し、根本から再設計することを目指します。つまり、企業の業務フローや組織の構造を抜本的に改革することを重視しています。また、その過程でITシステムの導入や改修を行うことも一般的で、これにより業務の効率化や生産性向上が期待されます。
BPRと他の概念の違い
BPRと混同されがちな概念に「業務改善」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という考え方があります。これらは視点や方法などに違いがあります。
BPR | 業務改善 | DX | |
概要 | 組織の業務プロセスを根本的に見直し、再設計を行う取り組み | 組織の業務プロセスを改善し、効率性や生産性を高める取り組み | デジタル技術を活用してビジネス全体を変革する取り組み |
視点 | プロセス全体 | 業務個々の改善 | ビジネス全体 |
方法 | 抜本的な変革 | 漸進的な改善 |
デジタル化による全面的な変革 |
BPRと業務改善の違い
業務改善は、社内の既存の業務フローやシステムを見直し、無駄や非効率な点を改善しようとする取り組みです。プロセスをスムーズにしたり、効率を上げたりすることで、企業のパフォーマンスを向上させるのが目的です。業務改善は既存のフレームワークの中で最適化を行うことが多く、小さな改良や改善が主となります。
一方、BPRはより抜本的なアプローチをとります。つまり、既存のフローやシステムを微調整するのではなく、一から作り直すことも含まれます。このため、BPRは業務改善よりも大きな変化と高いリスクを伴うことが多いです。
BPRとDXの違い
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用してビジネスを全面的に変革する取り組みです。ITの進化に伴い、企業は業務プロセスや顧客との接点、新たなビジネスモデルの創出など、さまざまな領域でデジタル化を進めています。DXはビジネス全体を見つめ直し、既存の概念を覆すこともあります。
一方で、BPRは業務プロセスの最適化に焦点を当てています。このプロセスはデジタル技術を活用することもありますが、BPR自体は必ずしもデジタル化に限定されません。
BPRのメリット
BPRが企業にもたらすメリットは「業務プロセスの可視化」「業務効率化」「ES・CSの向上」などが挙げられます。
業務プロセスを可視化できる
BPRは企業の業務プロセスを全体的に見直すため、全社的な業務プロセスを明確に可視化することが可能になります。業務フローが可視化し全体を俯瞰して理解できることで、業務の進行中に発生するボトルネックや無駄な作業、それらがどの業務に由来するのかを特定しやすくなります。
特にボトルネックの発見は重要です。エリヤ・ゴールドラット博士が提唱した制約条件の理論によると、ボトルネックが全体の生産性を規定すると指摘されています。つまり、ボトルネックを改善しない限り、他の部分でどれだけ改善を行っても全体の生産性は上がらないということです。
業務効率化できる
前述した通り、特定されたボトルネックが解消されれば、それによって業務フローがスムーズになり、時間の節約や生産性の向上が期待できます。さらに、業務プロセスが明確になることで、各部門や担当者間のコミュニケーションがスムーズになり、意思決定のスピードも大幅に向上します。
ES・CSの向上に繋がる
BPRの進行により、無駄な業務が削減されると、従業員のモチベーション向上や仕事の意義を感じる機会が増えます。これはES(従業員満足)の向上につながります。また、業務効率の向上は迅速な顧客対応やサービス品質の向上に寄与し、結果的にCS(顧客満足)を高めます。ESとCSは密接に関連しており、一方が高まると他方も向上する循環効果が期待できます。これがポジティブなフィードバックループを生み、結果的に企業の業績向上に繋がるのです。
▼関連記事はこちら:
「コールセンターで従業員満足度(ES)を向上させる実践的な方法について解説」
BPRの課題
BPRの進行は数多くのメリットを生む一方で、課題も存在します。一般的な課題点である「労力・時間・コスト」、「現場の抵抗」、そして特に日本経営特有の課題について詳しく解説します。
労力・時間・コスト
BPRは全社的な業務改革を目指すため、それを達成するには大量の労力と時間が必要となります。また、新たなITシステムの導入や外部からの専門家の協力といった形で、初期投資として相応のコストが発生します。これらの負担は中長期的には業務の効率化により回収可能ですが、短期的な負担増加への対応が必須となります。
現場の抵抗
BPRの推進は従来の業務フローを大きく変えることを必要としますが、現場からはこの変化への抵抗が生じやすいです。特に、短期的には業務負荷が増える可能性もあります。そうした抵抗を乗り越えるためには、BPRがもたらす中長期的なメリットやその意義を現場に対して明確に伝え、理解してもらうことが必要となります。
日本におけるBPRの課題
BPRを実施する日本企業にとっては、その大規模な改革が特に課題となります。この改革には十分な検討と計画が必要となります。平野雅章(1994)の『BPRの挑戦』(組織科学第28巻第1号)では、日本の企業がBPRを進めるにあたり生じる課題として、以下の4点が指摘されています。
①戦略(事業分野や機能分野の絞り込み)が定まっていない企業が多い
②IT基盤が貧弱である
③余剰人員の処遇方法が見えない
④評価指向が欠けている
これらの課題は、BPRを成功させるために重要な視点となります。それぞれに対して適切な対策を立てることが、効果的なBPRの推進に繋がります。
BPRの主要手法
BPRの成功には、効果的な手法の選択が不可欠です。ここでは、BPO、シェアード・サービス、シックスシグマ、ナレッジ・マネジメントといった、BPRの主要な手法を詳しく解説します。それぞれの特徴や効果、使いどころを理解することで、業務改革の効果を最大限に引き出すことができます。
BPO
BPO(Business Process Outsourcing)は、特定の業務プロセスを第三者企業に外部委託することを指します。BPRの一環として、コア業務以外を外部化することで、企業はより自社のコア業務に集中し、業務効率を向上させることができます。
また、専門的な知識や技術を持つBPOプロバイダーからの支援により、品質の向上やコスト削減も期待できます。ただし、BPOを適用する業務選定やパートナー企業選び、契約内容の詳細など、慎重な検討と計画が必要となります。
▼BPO業者の選定ポイントについてはこちら:
「事務アウトソーシング8選│委託のメリットとデメリット・業者選定ポイントを解説」
「【最新】コールセンターBPO8選│概要や選定時のポイント、ステップを解説」
シェアード・サービス
シェアード・サービスは、複数の部門や事業所で共通するバックオフィス業務(人事、会計、ITサポート等)を一つの内部組織に集約し、高度に効率化・専門化したサービスとして提供する手法です。これにより、業務プロセスのスリム化、適正化が可能となり、人材配置やデータ活用の効率化に繋がります。
また、シェアード・サービスの導入により組織全体のコスト削減だけでなく、業務の透明性を確保し、コーポレートガバナンスを強化する役割も果たします。BPRの一環としてシェアード・サービスの検討は、組織の生産性と効率性向上の一助となるでしょう。
シックスシグマ
シックスシグマは、統計的な手法を用いて業務プロセスのばらつきを分析し、品質改善やコスト削減を実現する手法です。名前の「シグマ」は統計学でばらつき(標準偏差)を表す記号で、その名の通り、ばらつきを最小限に抑えることで、高品質なサービスや商品を一貫して提供することを目指します。
シックスシグマはもともと製造業で生まれましたが、その思考法や手法は、営業部門や企画部門、さらにはサービス業等にも適用されています。BPRの過程でシックスシグマを取り入れることで、全体最適の視点からのプロセス改善と品質向上を実現できます。
ナレッジ・マネジメント
ナレッジ・マネジメントは、組織内の個々の知識や経験を共有し、新たな知識を創造するための経営手法です。初期のBPRでは非定型業務の生産性にあまり焦点が当てられていませんでしたが、現代のビジネス環境では知識や経験が企業価値の源泉となることが認識され、ナレッジ・マネジメントへの注目が集まっています。
この手法は、顧客対応の一環として活用されるコールセンターなどでも重視され、ナレッジマネジメントシステムの導入が進んでいます。BPRを進める上で、ナレッジ・マネジメントの考え方を取り入れることで、個々の業務改善だけでなく、組織全体の知識の共有と増強が可能となります。
BPRの具体的な進め方
BPRは大規模な改革であり、その成功には具体的なステップと計画が不可欠です。この章では、BPRの取り組み方について具体的に解説します。BPRの始め方、ステップバイステップの進め方、それぞれのステップで何をするべきか、そして取り組みを評価しフィードバックする方法について詳しく見ていきましょう。
BPRに取り組むための準備
BPRに取り組む前に、準備として確認すべき基本的な姿勢があります。経営コンサルティング会社である日本能率協会コンサルティングは、以下の7つの基本姿勢がBPRに成功するための鍵と提唱しています。
1.白紙姿勢(ゼロ・リセット):先入観を捨て、全てをゼロから見直す意識。
2.経営力と現場力の連携:上層部と現場が協力し、一体となって取り組むこと。
3.段階的な成果の実現:小さな成功を積み重ねていくこと。
4.ITの有効活用:デジタル技術を最大限に活用すること。
5.業務面、情報面での基盤整備:業務や情報管理の基盤をしっかり整えること。
6.人材変革の重視:スキルアップやマインドセットの変革を図ること。
7.業務改革の徹底実施:一時的な取り組みではなく、持続的な改革を進めること。
これらの姿勢を持つことが、BPRを成功させるための出発点となります。
BPRを進める5つのステップ
BPRを進めるための基本的なステップは5つあります。それぞれ、「目的とスコープを決める」、「現状・課題分析をする」、「戦略方針・ビジネスプロセスを設計する」、「プロジェクトを遂行する」、「モニタリング・評価をする」の順序で進行します。これらのステップを一つひとつ詳しく見ていきましょう。
目的とスコープを決める
BPRの初めのステップは「目的とスコープを決める」です。まず、BPRの目的を企業戦略に合致した形で明確に定義します。この目的は全ての施策の指針となるため、目標がブレないように具体的な言葉で定義することが重要です。
次に、取り組む業務範囲、つまり「スコープ」を決定します。対象業務やその範囲、単位を設定することで具体的なアクションプランを設計する基盤ができます。また、対象単位と改革のポイントとなるキープロセスや、事業システムの再構築単位であるBSU(Business System Unit)を明確にすることも求められます。
現状・課題分析をする
BPRの次のステップは「現状・課題分析」です。これは、現状の業務プロセスを詳細に調査し、その成分や構成を明確に理解することを意味します。さらに、各プロセスがもたらす課題を洗い出し、その原因を特定し、改善方法を検討する重要なフェーズです。
分析を行うにあたっては、既存の分析手法が参考になります。「ABC分析」で業務を優先順位付けする、「プロセスマッピング」で業務プロセスを可視化する、「ベンチマーキング」で他企業の成功事例を参考にする、あるいは「BSC(バランス・スコアカード)」を使用して、戦略的視点から業務を評価するなどがあります。
戦略方針・ビジネスプロセスを設計する
BPRの次の段階は「戦略方針・ビジネスプロセスの設計」です。現状分析と課題分析から導き出された結果を基に、ビジネスプロセス改革の具体的な戦略や方針を策定します。この段階では、リソースの確保、予定期間、予算などを明らかにし、全てのステークホルダーと共有することが重要です。
さらに、各課題について効果の高い解決策から優先順位をつけ、新たなビジネスプロセスを設計します。成功を確実にするためには、十分な体制の整備や、目標に向けた協力体制、つまりチームビルディングも必要となります。
プロジェクトを遂行する
BPRの実行段階「プロジェクトの遂行」では、プロジェクトリーダーとメンバーが主導して活動を進めます。進行の過程で出てくる進捗や課題は、全ステークホルダーとタイムリーに共有し、必要に応じて調整を行います。
また、長期にわたるプロジェクトでは、定期的に変更・調整ができるようマイルストーンを設定します。プロジェクト進行の中で目標や方針を見失わないために、その目的を常に明確に保ち、参加者全員で共有することが重要です。
モニタリング・評価をする
BPRの最終ステップ「モニタリング・評価」では、改変したビジネスプロセスが適切に機能しているかチェックすることが重要です。新たに実装した業務が始動した後、問題が発生した場合は、その原因を特定し修正を行います。
まとめ
BPRは業務プロセスの全体的な再設計を目指す手法であり、その実施には大きな労力と時間、コストがかかります。しかし、そのメリットは大きく、業務効率化、ES・CSの向上などが期待できます。進行の際には明確な目的設定、課題分析、戦略方針の設計、プロジェクトの推進、そして定期的なモニタリング・評価が必要です。
BPRは一度に全てを完璧にする必要はなく、段階的に進行することも可能です。迷ったときは外部の知見を取り入れることも有効な一つの手段となります。
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