コールセンターのDXとは|実現に向けたステップを解説
2024/10/09
- システム導入
- 生産性向上
- 顧客満足度向上
日本において、デジタルトランスフォーメーション(DX)の概念が浸透してきてからというもの、企業の運営方法やサービス提供のあり方に大きな変化が見られるようになりました。特に、人材不足など様々な問題を抱えるコールセンター業界では、DXによる変革への期待が高まっています。コールセンターではこれまでもデジタル技術の導入により、顧客サービスの質の向上や効率化が進められてきましたが、現代のDXが求めるのはさらなる進化です。
今回の記事では、コールセンターにおけるDXの意味や定義、必要性からその具体的な実現方法までを詳しく解説していきます。
コールセンターDXとは?
コールセンターのDXは、顧客との接点、業務プロセス、データの管理と活用の全域にわたり、売上向上や新たな価値創出に直結する施策を指します。現代では、人材不足という社会的問題に直面する多くの業界でDXが推進されており、コールセンター業界においてもその重要性は増しています。
この章では、そもそものDXの意味、混合されがちな言葉との違い、コールセンターでの重要性について確認しましょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味や定義
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用して、従来のビジネスモデルや業務プロセス、組織体制などを変革することに焦点を当てた取り組みを意味します。
日本においては、経済産業省が2018年に「DXレポート」を発表したことで、DXという用語が広く知られるようになりました。このレポートでは、DXを「ビジネス環境の急速な変化に適応し、データやデジタル技術の活用を通じて、顧客や社会が求める新しい価値を創造し、ビジネスモデルや製品、サービスを変革することによって、企業が競争優位を確立するプロセス」と定義しています。
DX、デジタイゼーション、デジタライゼーションの違い
DX(デジタルトランスフォーメーション)、デジタイゼーション、デジタライゼーションは、それぞれデジタル技術を活用した変革を指す言葉でありながら、そのスコープや目指すべき方向性において異なる概念です。
デジタイゼーションは、紙の文書やアナログデータをスキャンしてデジタルフォーマットに変換する行為のことで、主に情報のデジタル化を目的とします。また、デジタライゼーションは業務プロセスや運用をデジタル技術を用いて効率化し、改善することに焦点を当てています。
一方でDXはこれらを超えて全社的な視野でデジタル技術を駆使し、新たなビジネスモデルの創出や顧客体験の革新、競争優位性の確立を目指す取り組みです。これら三つの用語は、デジタル化の範囲と深さによって区別され、DXが最も包括的な変革を意味します。
コールセンターにおけるDXの必要性
コールセンター業界は、労働人口の減少とともにオペレーターの人材不足やサービス品質の低下という問題に直面しています。顧客の期待は年々高まり、迅速かつ高品質な対応が求められる中で、人材不足は業務の質と効率性に大きな影響を及ぼしています。
こうした状況に対応するため、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が急務となっています。DXによる自動化とデジタル技術の導入は、ルーティンワークの削減や業務プロセスの効率化を実現し、オペレーターがより価値の高い対応に集中できる環境を作り出します。
また、顧客満足度の向上だけでなく、従業員満足度の向上にも寄与し、離職率の低下や働きがいのある職場環境の構築にも繋がります。コールセンターにおけるDXの推進は、単にテクノロジーを導入するという意味を超え、業務の質と効率、そして従業員と顧客双方の満足度向上を実現するための必須の取り組みといえるでしょう。
コールセンターDXにおける3つのスコープ
コールセンターのDXを成功に導くためには、特に重要な3つのスコープがあります。それは、顧客とのタッチポイントのデジタル化、業務プロセスのデジタル化、そしてデータ管理・活用のデジタル化です。本章では、これら3つのスコープについて詳しく解説していきます。
顧客とのタッチポイントのデジタル化
デジタル技術の発達とともに、顧客とのタッチポイントのデジタル化が進展しています。これまで電話のみに依存していた顧客サービスが、メール、チャット、LINE、SNSといった多様なデジタルチャネルを通じたコミュニケーションに拡大してきました。実際、問い合わせで最初に選ぶ手段でもデジタルチャネルを選択する世代が増えてきています。顧客は好みや利便性に応じた方法でコールセンターへ問い合わせすることが可能になりつつあります。
また、FAQ、チャットボット、ボイスボットなど、顧客自身が問題を解決できるセルフサービスの提供も拡充されています。これらのデジタルチャネルとセルフサービスの拡張は、センターの人材不足という問題に対処すると同時に、顧客にとっても迅速で手軽な問題解決手段を提供することを可能にしています。タッチポイントの変革は、現代のビジネスでの成功を握っている「顧客体験」を向上させるのに重要な役割を担います。
業務プロセスのデジタル化
業務プロセスのデジタル化は、コールセンターの運用を大きく変革する重要な要素であり、顧客からの問い合わせに対し、効率的な対応を可能にします。具体的には、CRMシステムを使った対応履歴へのアクセスや管理、ナレッジベースや操作マニュアルのデジタル管理が挙げられます。
これらは従来、人力で作成、管理が行われてきましたが、音声認識など、AI技術をはじめとしたデジタル技術によって効率化が行われています。デジタル化することで、情報の即時アクセスや更新が容易になり、顧客対応のスピードと精度が向上します。さらに、生成AIが発展してきたことで、さらなる業務プロセスの効率化が期待されています。
データ管理・活用のデジタル化
コールセンターは、企業と顧客との間での重要な接点であり、顧客の声(VOC)を集める貴重な場所です。従来これらは、音声データなどの非構造化データとして蓄積され、利活用が難しい状態でした。しかし、技術の進歩により、CTIやCRMシステムが導入され、これらのデータを統計情報としてより管理しやすくなりました。さらに、デジタルチャネルの増加によってテキストデータの取得が可能になり、音声認識技術の発展は音声データをテキストに変換し、より分析しやすい形でのデータ蓄積と管理を実現しています。
これらの進歩により、コールセンターで得られるデータは、顧客サービスの質の向上、製品やサービスへのフィードバックの提供、さらには新たなビジネス機会の発見など、企業全体の価値向上に大きく寄与することができるようになっています。
コールセンターDXで活用されるシステム
コールセンターのDX化を推進する上で、CTI、FAQ管理システム、チャットボット、ボイスボット、CRM(顧客関係管理)、音声認識システム、そして生成AIなどは欠かせないツールです。この章では、これらのシステムがどのようにコールセンターDXに貢献しているかを詳しく解説します。
CTI(Computer Telephony Integration)
CTI(Computer Telephony Integration)は、コールセンターの運用に不可欠なシステムで、電話やFAXなどの通信機能をコンピュータシステムと連携させる技術です。この連携により、オペレーターはコンピュータ上で直接電話の操作を行うことが可能になり、受信した電話番号から即座にCRMやFAQシステムにアクセスし顧客情報を確認することができるため、問い合わせに迅速かつ適切に対応することが可能となります。
CTIシステムは、自動ダイヤル、通話録音、発信者情報の自動表示、IVR(Interactive Voice Response)といった機能を提供し、これらを通じてコールセンターの業務プロセスを大幅に効率化します。例えば、顧客からのコールを適切なオペレーターに自動的に振り分けることで、顧客対応のスピードと精度を高めることができます。CTIの導入は、コールセンターDXの中核をなす要素の一つです。
CTIについてはこちらの記事でも詳細を解説しています。
FAQシステム
FAQ管理システムは、顧客から頻繁に寄せられる質問や問題に対する回答をWebページ上で提供するシステムです。FAQシステムがあれば、顧客は自らの問題を自助努力で解決することが可能となります。現代の顧客は、コールセンターに問い合わせをする前に、まず自分で問題の解決方法を探す傾向にあるため、FAQシステムの導入により、顧客は簡単に、かつ迅速に必要な情報を見つけ出し、問題を解決することができるようになります。
このような自己解決支援の提供は、コールセンターへの問い合わせ数を減少させる効果があり、結果としてオペレーターの負担を軽減し、より複雑で個別の対応が必要な問い合わせに集中することが可能になります。
さらに、顧客が自分のペースで情報を得られることは、顧客満足度の向上に直接繋がります。実際に、自己解決率が高いと顧客満足度も向上するというデータがあり、FAQ管理システムの有効性を示しています。
FAQシステムについてはこちらの記事でも詳細を解説しています。
チャットボット
チャットボットは、テキストベースの会話を自動化する技術で、ユーザーが入力した質問やコメントに対してプログラムされたシナリオや機械学習を基に回答を提供します。このシステムは、特に簡易な問い合わせやよくある質問への迅速な対応に役立ち、顧客サービスの即時性とアクセシビリティを向上させます。
また、チャットボットを利用することで、顧客はFAQを検索したり、マニュアルを読み込む手間を省くことができ、よりエフォートレスに情報を得ることが可能になります。さらに、チャットボットは24時間365日対応可能であり、時間や場所を問わず顧客サポートを提供できるため、顧客満足度の向上に大きく寄与します。心理的なハードルが低いため、問い合わせをためらう顧客も気軽に利用でき、従来接触が少なかったサイレントカスタマーにとっても重要なタッチポイントとなります。
チャットボットについてはこちらの記事でも詳細を解説しています。
ボイスボット
ボイスボットは、音声認識、音声合成、およびチャットボットなどのAI技術を組み合わせたシステムで、電話を介した顧客対応の自動化を実現します。このシステムは、顧客からの問い合わせに対して自然な会話形式で応答する能力を持ち、APIを介した外部システムとの連携により、本人確認、各種手続きの実行、パーソナル情報に基づいたカスタマイズされた回答提供が可能です。
前述したオムニチャネル利用実態調査2022でも明らかな通り、現在でも多くの顧客問い合わせは電話を通じて行われています。ボイスボットの導入により、これらの対応を自動化し、オペレーターの負担を軽減することができます。また、自動化による迅速な対応は顧客の待ち時間を削減し、顧客満足度の向上に直接貢献します。さらに、チャットボットと同じく24時間対応可能な顧客サービスの提供を実現することで、企業のサービス品質向上に貢献する重要なツールです。
ボイスボットについてはこちらの記事でも詳細を解説しています。
CRM
CRM(Customer Relationship Management)システムは、顧客の基本情報、コンタクト履歴、購買履歴など、顧客に関するあらゆるデータを一元管理するためのシステムです。このシステムを活用することで、オペレーターはリアルタイムで顧客情報にアクセスし、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされたサービスを提供することが可能になります。
また、CRMはコンタクトセンターのデータプラットフォームとしても機能し、蓄積されたデータは、サービスの質を向上させたり、新たな顧客ニーズを発見するための貴重な資源となります。CRMシステムを他のビジネスツールやプラットフォームと連携させることで、さらに幅広い業務プロセスにおける効率化や自動化が実現され、コールセンター運営の最適化に貢献します。顧客との関係を深め、長期的なロイヤルティを築くために、CRMシステムの導入はコールセンターにとって欠かせない要素となっています。
CRMについてはこちらの記事でも詳細を解説しています。
音声認識システム
AI音声認識システムは、コールセンターに寄せられる電話問い合わせの音声データをテキスト化する技術です。従来、音声データは非構造化データとして扱われ、分析や管理が困難でしたが、AIを活用した音声認識により、これらのデータを構造化されたテキストデータとして扱えるようになります。これにより、対応履歴の入力作業の省力化が可能となり、テキスト化されたデータは顧客対応の分析や改善策の検討に活用できます。
さらに、リアルタイムでのテキスト化は、スーパーバイザーによるモニタリングを補助し、顧客対応の質の向上に貢献します。また、自然言語処理技術と組み合わせることで、顧客の問い合わせ内容に応じたFAQの推薦や、最適な対応策の提示など、より高度な顧客サービスの提供が可能になります。
AI音声認識システムについてはこちらの記事でも詳細を解説しています。
生成AI
生成AIは、自然言語の指示に基づき、新しい画像や文章などのコンテンツを自動で生成するAI技術を指します。この技術はコンタクトセンターにおいても応用されており、FAQの作成や顧客へのメール返信文の自動作成など、業務プロセスの効率化に大きく貢献しています。生成AIは、プロンプトと呼ばれる簡潔な指示から、必要な情報やコンテンツを瞬時に作り出すことが可能であり、これによりオペレーターの作業負担が軽減されます。
さらに、生成AIはデータ分析の分野においても画期的な進歩をもたらしており、従来は専門的な統計学の知識やプログラミングスキルを必要とした分析作業が、自然言語のクエリによって行えるようになりました。これにより、データサイエンティストなどに頼らずとも、現場で高度な分析ができるようになります。
しかし、生成AIの活用には課題も存在します。特に、生成される内容の正確性が一定ではないため、顧客との直接的なコミュニケーションにおいては、人間による最終的なチェックが重要となります。コンタクトセンターでは、生成AIの能力を最大限に活用しつつ、その限界を理解し、適切な監視と管理を行うことが、効果的な利用につながります。
生成AIについてはこちらの記事でも詳細を解説しています。
コールセンターDXの実現に向けたステップ
コールセンターのDX実現に向けたステップは、戦略の策定から始まり、現状の業務プロセスの分析・見直し、必要な技術の選定・導入、そして継続的な分析と改善などが必要です。この章では各ステップについて詳細を説明します。
DX戦略の策定
コールセンターのDXは単にデジタル技術を導入することではありません。DXとデジタルツールの導入が同義と誤解されがちですが、本質的には大きな違いがあります。DXは、まず明確な目的と戦略を設定し、その枠組みの中でデジタル技術をどのように活用するかを考えるプロセスです。つまり、戦略なしにデジタル技術を導入することは、真のDXとは言えません。
コールセンターのDX化においても、この原則は変わりません。まずは、コールセンターが直面している課題を特定し、どのように改善したいかという具体的な目的を設定することが必要です。その上で、その目的達成のためにデジタル技術をどのように活用するか、どの技術が必要で、どのように導入すれば最大の効果が得られるかという戦略を策定します。戦略なき技術導入は避け、明確な目標に基づいたDX推進を行いましょう。
現状分析と業務プロセスの見直し
DX戦略の策定後、即座にデジタル技術の導入に走るのではなく、現状分析と業務プロセスの見直しを行いましょう。どの業務領域にデジタル技術を適用すれば最も高い効果を得られるのかを見極めるためには、まず現在の業務プロセスの詳細な分析が求められます。この分析には、日々の業務に深く関わる現場のスタッフの知見が必要不可欠です。彼らは業務の実際の流れ、煩雑さ、非効率の原因となっている部分を最もよく理解しています。
このプロセスでは、現場の声を取り入れ、業務フローを可視化することで、デジタル化によって解決すべき課題や改善点が明確になります。また、デジタル導入の優先順位を定め、リソースを効果的に配分するための基盤ともなります。DXはテクノロジーだけの問題ではなく、組織全体の変革を意味します。そのため、システム情報部門だけでなく、現場の業務知識を持つスタッフと協力しながら、業務プロセスの見直しと改善を行うことが成功への鍵となります。
必要技術の選定と導入
現状分析と業務プロセスの見直しを経て、必要な技術の選定と導入のフェーズに移行します。ここでの重要なポイントは、選定する技術自体に注目するのではなく、その技術が業務やサービスにもたらす具体的な結果やメリットに焦点を当てることです。技術選定は、コールセンターDXの戦略的目標を達成するための手段として考えるべきであり、どの技術が業務効率化、顧客満足度の向上、コスト削減などの目標に最も効果的に寄与するかを基準に選定する必要があります。
技術選定と導入に際しては、予算やセキュリティ、技術導入に伴うオペレーショナルリスクなどの現実的な制約も考慮する必要があります。また、導入される技術が現場で適切に活用されるためには、従業員へのトレーニングやユーザーへの利用促進活動が欠かせません。これにより、技術導入の成果を最大化し、従業員や顧客の受け入れやすさを確保することができます。
分析と改善
デジタル技術の導入が完了したからといって、その効果がすぐに現れるわけではありません。重要なのは、導入後の利用状況を分析し、継続的に改善を行っていくプロセスです。コールセンターDXでは、新たに導入された技術やシステムが業務にどのように貢献しているかを定期的に評価し、問題点や改善の余地がないかを検証します。この分析に基づき、プロセスの最適化、システムのアップデート、ユーザーインターフェースの改善など、具体的なアクションを計画し実施します。
DXの成功は、このようなフィードバックループが効果的に機能することで初めて実現します。利用者からのフィードバックを収集し、それをもとにシステムやサービスを改善することで、徐々に業務効率や顧客満足度を高めていくことが可能になります。
まとめ
今回の記事では、コールセンターのデジタルトランスフォーメーション(DX)に必要なステップと、それを成功に導くための重要な要素について解説しました。コールセンターを取り巻く環境は急速に変化しており、顧客の期待値も高まる一方で、効率的なサービス提供と高い顧客満足度の維持が求められています。このような状況下で、デジタル技術の積極的な活用はもはや選択肢ではなく、必須の取り組みとなっています。しかし、多くのコールセンターにおける技術導入は、既存の業務フローをデジタル化するに留まっています。
コールセンターDXの実現には、戦略の策定から始まり、現状分析、必要技術の選定と導入、そして継続的な分析と改善が不可欠です。これらのステップを踏まえ、デジタル技術を戦略的に活用することで、コールセンターは顧客ニーズに応え、競争力を高めることができるでしょう。
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