ボイスボットとは|基本的な仕組みやコールセンターで活用されている6社のシステムを比較

2024/02/25

近年、コールセンターシステムのAI活用が進んでいます。その中でよく話題に上がるのが「AIによるコールセンターの無人化は可能か」という議論です。

そこで本記事では、無人化を実現するシステムとして注目されるボイスボットについて、実際の導入事例から実態を調査しました。また、国内主要ベンダー4社の比較・特徴についても解説します。

ボイスボットとは

ボイスボットとは、音声認識・音声合成・チャットボットなどのAI技術を組み合わせ、電話対応を自動化することができるシステムです。お客様からの問い合わせに対し、人を介さずシステムで回答を完結させることができます。

現状で人間と同等の判断力や対応力のあるAIシステムは存在しません。そのため、完全に人間の代替ができているわけではありませんが、トークフローが簡易なものについては無人対応が実現しています。

システムが問い合わせを回答するまでの流れ

お客様からお問い合わせ頂いた質問をシステムが回答するまでの流れは以下です。

  1. お客様の音声による問い合わせを「音声認識技術」を使ってテキストデータ化
  2. テキスト化したデータを「自然言語処理技術」を使って内容理解
  3. 問い合わせの内容に合わせた回答をテキストで生成
  4. 生成したテキストによる回答を「音声合成」を使って回答

ボイスボットでは、スマートフォンやAIスピーカーなどで使われている「音声認識技術」を利用します。コールセンターにおける音声認識技術は発話者の環境(周囲の雑音環境や通信環境)によって認識率が変わりますが、70~95%ぐらいの認識率といわれています。(ちなみに人間が書き起こしをすると90~95%ぐらいの認識率です)

テキスト化したデータは「自然言語処理技術」によって、内容の理解、回答の生成が行われます。これは、いわゆるテキストベースのチャットボットと同じ処理になります。

最後に「音声合成技術」を使い、生成した回答を自然な形で読み上げます。

ボイスボットができること

現状のボイスボットは、シナリオに応じた単純な回答だけではなく、APIを利用した外部システムとの連携を活用することで、「本人確認」や「手続き」、「パーソナル情報に応じた回答」などができるようになっています。最近ではAI技術の発達に伴い、フリーワードでも意図を理解し、無数の可能性から回答することが可能になっています。

ボイスボットができないこと

一方で、現時点でボイスボットには技術的な限界もあります。まず、あらゆる場面に対応できるようになったとはいえ、その場でAIが判断をして回答しているわけではありません。シナリオであらかじめ用意された回答文言を回答にしているに過ぎません。

生成AIの発達により、その場その場で回答を生成し回答することも今後は期待されますが、現時点では回答の正確性の問題や、回答速度(生成AIが回答を生成するのには現状数秒かかる)の問題でボイスボットへの生成AI適用はまだ限定的です。

生成AIの最新トレンドについてはこちらの記事を参照ください。

「音声IVR」と「チャットボット」との違い

ボイスボットはよく「IVR」や「チャットボット」と何が違うのかという議論になりますが、それぞれの特性について見ていきましょう。

項目

ボイスボット IVR チャットボット
入力 音声

プッシュボタン

テキスト
出力 音声

音声

テキスト
やり取りできる情報 文字情報/数字情報

数字情報のみ

文字情報/数字情報
シナリオ ルールベース/機械学習

ルールベース

ルールベース/機械学習
シナリオの階層 深い

浅い

深い
離脱率 低い

高い

低い
コスト 数十万~数百万

数千円~数万円

数十万~数百万

ボイスボットがチャットボットより優れている点

「ボイスボット」が「チャットボット」と比較して優れている点は大きく以下の2つです。

  1. 普段テキストではなく電話でやり取りすることが多いユーザーも使いやすい
  2. 「ながら作業」で完結できる

デジタルネイティブが増えることで電話を利用する数は少なくなっているという議論はありますが、実際には全世代で電話のチャネルは今だに最も利用されるチャネルになっています。これは電話が持つリアルタイム性や情報伝達量の多さなどが起因します。また、デジタルチャネルの利用に慣れない高齢者などにとっては電話チャネルは必要不可欠なチャネルです。

ボイスボットがIVRより優れている点

次に「ボイスボット」が「IVR」と比較して優れている点は大きく以下の3つです。

  1. IVRで扱えるのは数字情報のみに対し、ボイスボットでは文字情報までやりとりできる
  2. 音声という自然なUIによるインタラクティブなやりとりになるので、階層が深くても離脱率が低い
  3. プッシュミス率と音声認識の認識率を比較すると、音声認識による認識率の方が高い

IVRとボイスボットの大きな違いは取り扱うことできる情報量です。例えば、IVRは数字情報のみしか扱えないため、どうしても選択式にせざるを得ません。しかし、そうなると一度に提示できる選択肢は限られます。それに比べて、文字情報を扱えるボイスボットはより多くの選択肢を、人間にとって最も自然な音声による対話というインターフェースで提供が可能です。また、意外なデータとして音声認識の方がプッシュの選択よりも認識率が高いというデータもあります。つまり、ボイスボットの方がIVRより早く問い合わせ目的に辿り着くことができるということです。

現在導入が進んでいる業界、業務内容とは

ここまで、「ボイスボット」の仕組みや、類似製品との比較を見てきました。これらの特徴を踏まえて現在実際に導入が進んでいる業界、業務内容を具体的に一覧にしました。

業界

事業者

業務の概要
サービス

テレマーケティング事業
(コールセンターBPO)

コールセンター業務
情報通信 ITサービス、携帯電話、通信事業者、ISV

ヘルプデスク
各種問い合わせ対応

資源、エネルギー 電気・ガス

開栓/閉栓、工事予約など

金融・法人サービス

銀行、クレジット、証券、ネット証券
保険、人材

お客様窓口、案内
資料請求、再発行

娯楽・エンタメ
メディア

旅行、ホテル 予約・予約確認
建設・不動産 不動産仲介、マンション管理

空き物件確認、故障
メンテナンス

運輸・物流 郵便、物流、宅配

配達状況問い合わせ、再配達

流通・外食

通販(TV、EC)百貨店
家電量販店、外食

販売業務、修理受付
お客様窓口

公共

中央官庁、自治体 各種問い合わせ、資料請求

自動車

レンタル、カーシェア 予約、予約確認、空き状況

 

次に業務別の適用可能な一覧を見ていきましょう。

業務 概要

分野

受付業務 TVショッピングの手中呼応など

TVショッピング、通販、エンタメ

コールバック受付 集中呼、待ち呼や営業時間外の自動受付
修理受付やヘルプデスク

家電量販店、ソフトウェア販売
他多業種

定期配送変更 定期配送の変更(追加・停止・再開)

宅配(水、ペットフート、コスメ、サプリ、コンタクトなど)

資料・書類の請求 資料や手続き・申込・振込用紙の請求
控除証明などの再発行受付

公共、金融・保険、カード
収納代行

再配達受付 不在時の再配達予約

郵便、物流、通販

配送状況問合せ 購入品の配達状況問合せ

郵便、物流、通販

配達状況確認
(ドライバ)

ドライバからの配達状況連絡。 出発、到着
遅延、ルート変更など
物流

カタログ
DM停止

カタログ、DMや会報誌の停止 通販、カード、自動車、旅行
コスメ、宗教など
督促業務 支払期日、支払遅れ、契約期限の案内

公共、金融・保険・カード
収納代行

会員向け案内

契約情報、製品情報やポイント案内
簡単なコールリーズン対応

公共、BtoC企業
情報案内

数が多いが簡単なコールリーズン対応

公共、企業全般

要件振り分け
転送

要件や要望に応じた適切な部署・拠点に転送 公共、企業全般
キャンペーン対応

既存会員へのキャンペーン受付や
新規の無料サンプル受付

公共、全般

シンプルな業務に関しては、幅広い業界で導入が進んでいることがわかります。

ボイスボットによる対応内容一例

それでは、次によりイメージを具体的にして頂くため、実際の対応内容の一例を見ていきましょう。

代表電話・時間外受付の場合

面談予約の場合

アポイントの調整についてもカレンダーアプリと連携しておくことで、人を介さずに調整することができます。保険窓口や人材会社の登録会の予約受付などで利用することができます。企業によっては業務を分解し、定型業務をすべて自動化してしまい、オペレーターがより高度な業務に集中できるような環境作りを行っているようです。

国内主要ベンダー 6社特徴・比較

ここまで、ボイスボットの現状や特徴などを整理してきました。次にコールセンター向けにボイスボットを展開している国内主要ベンダー6社を比較してみました。

LINEWORKS AiCall【LINEWORKS株式会社】

【特徴】
・LINE公式アカウントやLINEWORKSをはじめとしたLINEのファミリーサービスとの連動が可能
・ヤマト運輸やソフトバンクなどに採用され国内でトップクラスのコール数に対応している実績
・高齢者でも利用可能な自然でなめらかな会話体験の実現

「LINEWORKS AiCall」はLINEのAIテクノロジーブランド「LINE CLOVA」を源流とする音声応対AIサービスです。

「LINE CLOVA」のAI技術である、「CLOVA Speech(音声認識)」と「CLOVA Voice(音声合成)」および会話制御の仕組みを組み合わせることで、ユーザーの要望に対してAIによるなめらかで人間味あふれる自然な会話での課題解決を実現できます。ヤマト運輸の集荷受付やソフトバンクの総合窓口、飲食店の予約業務など、幅広い用途で導入されています。

通話終了後に確認通知をLINEやLINEWORKSで送信することができ、LINEのもつ幅広いサービスとの連動をすることで、ユーザーの利便性向上などを図ることができます。

PKSHA Voicebot【株式会社PKSHA Communication】

【特徴】
・高い対話完結率を実現可能なシチュエーション特化音声認識エンジンを搭載
・大手新聞社やBPO国内トップ企業などの導入実績
・ユーザー側で修正、構築可能なGUIの提供

株式会社PKSHA Communicationは、AI技術の国内トップランナーの一つである株式会社PKSHA Technologyの子会社として設立した企業で、chatbotやFAQシステムでトップシェアを持ちます。

日本経済新聞社やテレマーケティングエージェンシーとして国内トップのトランスコスモス株式会社への導入実績があります。元々、テキストベースの対話エンジンは、ユーザーの質問を正しく理解できる高い日本語認識能力や、ダッシュボードが評価され、大手企業を中心に多数の導入実績があります。

AIコンシェルジュ【株式会社 TACT】

【特徴】
・長年コールセンターを運営してきたノウハウ、コンサルティング力
・生協組合やガス会社の受付などの企業で導入実績
・運用面のサポートが充実、運用後のチューニング費用も不要

株式会社 TACTは、株式会社 USEN-NEXT HOLDINGSの子会社で、BPO・コンタクトセンター事業を運営する企業です。

これまでの実績を元にシナリオはパッケージ化されており、安価にかつスピーディに導入が可能です。導入実績は国内でトップクラスの数を誇り、東海コープや明治産業に導入されています。

運用開始後のサポートも充実しており、音声認識精度向上のためのチューニング費用が不要、ユーザー側はエラーに対する修正案の承認のみと現場に負担のかからないAI活用が可能です。

CAT.AI【株式会社トゥモロー・ネット】

【特徴】
・ボイスボット(音声対話AI)とチャットボット(テキスト対話AI)を同時に利用することが可能
・高性能なNLP(自然言語処理)エンジンを搭載
・専門デザイナーがCX(顧客体験)と豊富なAI機能を駆使しAIコミュニケーションをデザイン

株式会社トゥモロー・ネットが運営する「CAT.AI」はボイスボット(音声対話AI)とチャットボット(テキスト対話AI)を同時に利用することができる最新の「ナビゲーション型」対話AIです。

最大の特徴は、聴覚情報(ボイスボット)と視覚情報(テキストボット)をマルチに利用することができる点で、ボイスボットだけでは案内が難しいような情報を視覚で補うことで、よりスムーズな会話を実現することができます。

また、同社は自社ボイスボットと有人オペレーションを組み合わせた「ICXセンター」を構えており、新しいコールセンターの形に自ら取り組んでいます。

AI Messeger Voicebot【株式会社AI Shift】

【特徴】
・サイバーエージェントが持つ豊富なAI技術の研究実績
・chatbot構築で培ったプロフェッショナルによる対話構築の体制と実績
・要望に合わせた外部システム連動シナリオの構築

サイバーエージェントの子会社である株式会社AI Shiftが運営する「AI Messeger Voicebot」はChatbotで高いシェアを持つAI Messegerを音声でも利用できるようにしたサービスです。

AIを研究する専門チームを持っており、産学連携にも積極的です。そのため、アカデミックでも認められた高い技術力を背景とした高品質のプロダクトが特徴です。また、chatbotで豊富な実績を持っており、AIの対話構築にも豊富なノウハウを持っています。

Terry【Hmcomm株式会社】

【特徴】
・産総研開発の技術基盤をベースにした高性能認識エンジン
・大手テレビショッピングや家電量販店などの導入実績
・最短1週間で構築可能な「高速導入パッケージ」を用意

Hmcomm株式会社は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)発のテックベンチャー企業です。

産総研が開発した音声認識技術をベースにしたエンジンを採択しており、すべての機能、技術を自社開発で完結する高い技術力が特徴です。すでに、TVショッピング大手のディノスセシールや家電量販店大手のヤマダ電機にも導入されております。

直近では、「Terry」を使った委託業務事業や最短1週間で構築可能な「高速導入パッケージ」を用意するなど、事業拡大に力を入れています。

システムの選定ポイント

各社の特徴を見てきましたが、最後に選定のポイントをまとめたいと思います。

比較項目

ポイント

認識エンジンの性能

少量のデータで学習が可能かどうか

導入実績

自社業務に近い導入実績があるか

シナリオ構成力

自社にあったシナリオを作れるか

導入後の運用支援・フォロー

導入後の運用支援は手厚いか

技術力

機能開発/他社連携などに対応できるか

特に注目すべきは導入実績の部分です。

AIにおいてはデータを持っているかどうかがカギとなるため、自社に近い業務の実績がある会社は初期の学習コストや運用コストが下がる傾向があります。逆にまだ導入が進んでいない業界・業務では、業界内のオピニオンリーダー的な立ち位置になれるチャンスです。AIはデータ蓄積→データ活用のループを回すことで効果を発揮する技術のため、先行者利益があります。

まとめ

今回の記事では今コールセンター業界で導入が進んでいるボイスボットについて、その概要や国内主要ベンダーについて解説しました。

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Writer編集者情報

  • コネナビ編集部 平井 美穂

    2012年、株式会社セントメディア(現:株式会社ウィルオブ・ワーク)へ入社し、コールセンターとオフィスワークに特化した人材サービスの事業部へ配属。フィールドサポータや営業コーディネータ、キャリアアドバイザー、新規営業、人材紹介(転職支援)などを経験。
    2020年 人材紹介にて自己最高売上を記録、時短勤務×妊娠中での実績が評価され全社月間MVPにノミネート。現在5歳と2歳を育てるパワフルワーママ!

    ・趣味:断捨離、森林浴、岩盤浴
    ・特技:細かい事に気が付く点

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