デジタル人材とは|コールセンターでの重要性と育成方法、成功事例を解説
2024/11/12
- 教育・育成
- 生産性向上
コールセンター業界は、急速に進化するデジタル技術の波を受け、新たな時代に突入しています。特に、生成AIの登場やデータ分析技術の導入により、業務効率化や顧客満足度の向上が可能となり、その中核を担うデジタル人材の育成が急務となっています。
しかし、コールセンターの現場を深く理解し、かつデジタル技術に精通した人材は未だ不足しているのが現状です。
本記事では、コールセンターにおけるデジタル人材の役割と育成方法に焦点を当て、効果的な研修ステップや成功事例を紹介します。コールセンターの未来を見据えたデジタル人材の育成に必要な知識と実践的なアプローチを提供します。
コールセンターにおけるデジタル人材育成の重要性
コールセンターのデジタル化を進める際、情報システム部門やDX推進部門が現場を理解せずに先行してツールを導入し、現場が振り回されるケースが少なくありません。コールセンターのオペレーションは緻密に計算されており、効果的なデジタル化が求められます。
そこで重要になってくるのが、コールセンター現場のことも、デジタル技術のことも理解した「コールセンターのデジタル人材」です。この章では、まずコールセンターにおけるデジタル人材の重要性にフォーカスします。
デジタル化とは
デジタル化には、適用範囲や目指す方向性によって、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーション(DX)と大きく3つのフェーズがあります。
- デジタイゼーション:紙の文書やアナログデータをデジタルフォーマットに変換する行為です。例えば、紙で行っていた受発注をシステムに移行する、マニュアルをデータ化するなどが挙げられます。
- デジタライゼーション:業務プロセスや運用をデジタル技術を用いて効率化し、改善することに焦点を当てています。例えば、音声認識を導入してアフターコールワークを効率化する、FAQシステムを導入してナレッジ管理を効率化するなどがあります。
- デジタルトランスフォーメーション:全社的な視野でデジタル技術を駆使し、新たなビジネスモデルの創出や顧客体験の革新、競争優位性の確立を目指す取り組みです。例えば、コールセンターも含めた顧客体験をデジタル技術によって変革する、コールセンターで得られたVOCをサービスや商品の開発、改善に活用するなどが含まれます。
現状、多くの企業がデジタイゼーションまでは進めており、デジタライゼーションに取り組んでいる段階です。一方、デジタルトランスフォーメーションまで到達している企業は少ないのが実情です。
なお、コールセンターのDXについてはこちらの記事も参照ください。
デジタル時代に求められるコールセンターの変革
デジタル時代において、コールセンターは単なる顧客対応を行うコストセンターから、良質な顧客体験で他社との差別化を生み出し、顧客データを蓄積できる戦略的プロフィットセンターへと変革を求められています。
一方で、それらを実現するための人的リソースが日本の労働力人口の減少により圧倒的に不足しているという事実があります。そのため、業務の効率化や自動化が必要になっています。 つまり、効率化の観点からも、顧客体験やデータ戦略の観点からも、デジタル技術を取り入れたコールセンターの変革が求められているのが、現状のコールセンターの課題です。
デジタル人材の役割と必要性
デジタル人材とは、デジタル技術やデジタルビジネスに関する専門知識と技能を持ち、それらを活用してセンターの変革や価値創造に貢献できる人材のことを指します。
彼らの役割は、単に技術選定をすることだけではありません。業務プロセスを理解し、どこにデジタル技術を用いれば最も効果的かを分析し、適切なデジタル技術を適切な形で導入することが求められます。そのため、技術的な知識だけでなく、データリテラシーやビジネス理解、プロジェクトマネジメントの能力なども必要となります。
効果的なデジタル人材育成のステップ
デジタル人材の育成は、コールセンターの未来を左右する重要な取り組みです。しかし、一朝一夕で成果を出せるものではありません。計画的かつ段階的なアプローチが必要となります。ここでは効果的なデジタル人材育成のステップについて解説します。
デジタルスキル評価とギャップ分析
デジタル人材育成の第一歩は、現状を正確に把握することから始まります。組織全体と個々の従業員のデジタルスキルレベルを客観的に評価し、業界標準や将来のニーズと比較することで、現状とあるべき姿とのギャップを明確にします。
評価の対象となるスキルには、基本的なデジタルリテラシーから、データ分析能力、AI・機械学習の理解度、デジタルツールの活用力などが含まれます。また、将来必要となるスキルセットを定義する際には、業界動向や技術トレンドを十分に調査し、中長期的な視点を持つことが重要です。 なお、スキルセットの定義には経済産業省が定める「デジタルスキル標準」が一つの目安となります。
カスタマイズされた育成計画の策定
ギャップ分析の結果を基に、個々の従業員に合わせたカスタマイズされた育成計画を策定します。この計画は、各従業員の現在のスキルレベル、学習スタイル、キャリア目標などを考慮に入れて設計します。短期的には即戦力となるスキルの習得を、中期的にはより高度な専門知識の獲得を、長期的には組織のデジタル変革を牽引できるリーダーシップの育成を目指すなど、段階的な目標設定が重要です。
また、オンライン学習、集合研修、OJT、外部セミナーへの参加など、多様な学習方法を組み合わせることで、効果的かつ効率的な学習を促進します。
基礎研修プログラムの実施
全ての従業員に対して、デジタル技術の基礎を学ぶ機会を提供することが重要です。この基礎研修プログラムでは、クラウドコンピューティング、AI、ビッグデータなどの基本概念や、これらがコールセンター業務にどのように応用されるかを学びます。知識の目安としては、技術系試験の登竜門であるITパスポート、AI分野でいけばディープラーニング協会のG検定ぐらいが目安になってきます。どちらも通常業務をこなしながらでも、1ヶ月程度勉強を実施すれば取得できる難易度です。
また、サイバーセキュリティの基礎知識も欠かせません。個人情報保護の重要性や、基本的なセキュリティ対策について学ぶことで、安全なデジタル環境を維持する意識を高めることができます。 さらに、この基礎研修は、座学だけでなく、実際のツールを使用したハンズオン形式で行うことで、理解度と定着率を高めます。エクセルの高度な使用方法や、簡単な統計分析の手法を学ぶことで、データを分析し意味のある示唆を出す方法を養うことができます。研修後には簡単な課題や小テストを実施し、学習の成果を確認するとともに、追加のサポートが必要な領域を特定します。
専門スキルの深化
基礎研修を終えた後は、より高度な専門スキルの習得に焦点を当てます。例えば、以下のようなスキルの習得が考えられます。
- AI・機械学習の応用:チャットボットの運用管理や、自然言語処理を活用した顧客感情分析など
- 高度なデータ分析手法:予測分析や顧客セグメンテーション、A/Bテストの設計と実施など
- デジタルカスタマーエクスペリエンス設計:オムニチャネル戦略の立案や、パーソナライゼーションの実現方法など
これらの専門スキルの習得には、外部の専門家を招いてのワークショップや、オンラインの専門コースの受講、業界カンファレンスへの参加などを組み合わせて活用します。
また、習得したスキルを実際の業務に適用する機会を積極的に設けることで、理論と実践の橋渡しを行います。これらの取り組みを通じて、組織全体のデジタル対応力を大きく向上させることができます。
実践的トレーニングとOJT
座学で学んだ知識やスキルを実際の業務で活用できるようにするため、実践的なトレーニングとOJTを重視します。まず、実際の顧客対応シナリオを基にしたシミュレーション訓練を行います。ここでは、新しく導入されたデジタルツールやAIシステムを使用しながら、様々な状況下での対応力を磨きます。
次に、実際の業務の中で新しいスキルを適用する機会を設けます。例えば、データ分析スキルを身につけた従業員に、実際の顧客データを分析し、インサイトを抽出するプロジェクトを任せるなどします。このプロセスでは、経験豊富な先輩社員によるメンタリングやコーチングが重要な役割を果たします。メンターは、新しいスキルの適用方法についてアドバイスを提供し、つまずきや課題に直面した際のサポートを行います。
また、定期的なフィードバックを設け、学習者の進捗を確認し、必要に応じて学習計画を調整します。このような実践的なアプローチにより、従業員は自信を持って新しいスキルを活用できるようになり、組織全体のデジタル化の推進力となります。
継続的学習文化の醸成
デジタル技術の急速な進化に対応するためには、一度きりの研修では不十分です。組織全体で継続的な学習を奨励し、支援する文化を醸成することが重要です。 以下のような取り組みが効果的です。
- 自己学習の奨励:オンライン学習プラットフォームへのアクセスの提供、業務時間の一部を自己学習に充てることの許可
- 知識共有プラットフォームの構築:社内SNSやWikiを活用し、デジタル関連のトピックについてのディスカッションやベストプラクティスの共有
- 定期的なスキルアップデート研修の開催:最新のデジタルトレンドや新しいツールについて学ぶ機会の提供
このような継続的な学習文化を通じて、従業員は常に最新のデジタルスキルを維持し、組織全体のデジタル対応力を高め続けることができます。
パフォーマンス評価と改善
デジタル人材育成の効果を最大化するためには、定期的なパフォーマンス評価と継続的な改善が不可欠です。
まず、デジタルスキルの向上が業務パフォーマンスにどのように影響しているかを測定するKPIを設定します。例えば、FAQやchatbotなどを活用してどれだけ呼量が削減できたかやデジタルチャネルでの顧客満足度などが考えられます。 これらのKPIを定期的に測定し、目標値との差異を分析します。また、個々の従業員のスキルレベルを定期的に評価し、育成計画の見直しや調整に活用します。
最新技術トレンドへの適応
デジタル技術は日々進化しており、コールセンター業界にも新たな技術やツールが次々と導入されています。昨今話題になっている生成AIなどはまさに最新技術トレンドであり、多くのセンターでどのように取り組むかを検討しているのではないでしょうか。
そのような新技術が出てきた時には、まずはデジタル技術の専門チームを設置し、新技術の調査と評価を行います。まずは組織の中でも特にデジタル技術に精通したエンジニアチームなどが技術を深く理解することで、その技術が将来有望なのかを判断することができます。 有望と思われる技術については、小規模なパイロットプロジェクトを実施し、実際の業務環境での効果や課題を検証します。成功事例については、社内で広く共有し、他の部門や業務プロセスへの展開を検討します。
また、この過程で得られた知見を基に、必要に応じて育成プログラムを更新し、従業員が最新技術にキャッチアップできるようサポートします。このような継続的な技術適応のサイクルを確立することで、組織全体のデジタル競争力を維持・向上させることができます。
デジタル人材育成に取り組む企業の事例
デジタル人材育成の重要性は理解できても、具体的にどのように進めればよいか悩む企業も多いでしょう。ここでは、実際にデジタル人材育成に取り組む企業の事例を紹介します。
LINEヤフーコミュニケーションズ
LINEヤフーコミュニケーションズは、LINEヤフーグループの一員として、主にグループサービスのカスタマーサポートやモニタリング、テストやアノテーションといった業務に対応しています。
同社ではAI運営室なるLINEのAIを使った各種サービスの運営に幅広く対応している部署があり、AI未経験の人材をAIサービスを運営できる人材に育てることに力を入れて取り組んでいます。AI運営人材として必要なミニマム要件を定めており、さらに、その中でそれぞれ自分の得意分野を磨き、追い求め続けられることを重視しています。
平均毎週1〜2時間スキルアップに時間を当てられる時間を設けるなど自己研鑽できる環境や、組織全体の人材育成・業務効率化を行う専門チームを設けるなど、未経験者でもAIサービス運営のスキルを効率的に習得できる環境を整え、継続的なスキルアップを促す仕組みを導入している点が鍵です。
その結果、AIチャットボット開発では開発期間1ヶ月弱で精度95%を達成するなど、AI未経験人材だけでもAI分野での高い成果を挙げています。 出典:LINEヤフーコミュニケーションズ Pressよりこちらの記事を参照
TMJ
TMJはコンタクトセンター業務のアウトソーシングを中心とするBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)企業です。顧客企業のカスタマーサポート、テクニカルサポート、セールスサポートなど、多岐にわたるサービスを提供しています。 同社では、2025年度までに現場管理者の半数にデジタルスキル習得を目指す、現場管理者向け「デジタル人材育成プログラム」を2023年より開始しています。このプログラムは、デジタルスキルを活用した業務改善を目指し、3つの領域(デジタル、データ、デザイン)と3階層(Basic, Middle, Top)で構成されています。
背景として、同社では300社以上の取引先に1,000件を超えるBPOサービスを提供していますが、クライアントごとにカスタマイズされたサービスのため、画一的なDX導入が困難でした。そこで、現場管理者自身にDXスキルと知識を習得させることで、効率的で付加価値の高いオペレーションの実現を目指す方針へと切り替えています。 今後の展望として、初年度は階層合計で60人を、3年後の2025年度には現場管理者の半数がデジタルスキルを習得し、センターが運営される状態を目指しています。
クレディセゾン
クレディセゾンは日本の大手クレジットカード会社です。クレジットカード事業を中心に、金融サービス、リース事業、不動産事業など、幅広い分野でサービスを展開しています。 同社は「CSDX VISION」を掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。その一環として、2024年度までにデジタル人材を1,000人規模に拡充する計画を立てています。クレディセゾンは、デジタル人材を3つのレイヤーに分類して育成しています。
特にレイヤー2の人材の育成に力を入れており、社内公募で選ばれた総合職社員が、テクノロジーセンターに異動し、2ヶ月間の「電撃研修」を受けてデジタルスキルを習得します。このアプローチにより、業務知識とデジタルスキルを兼ね備えた人材が育成され、高精度なシステム開発が可能になりました。
一例として、コールセンター業務歴20年の課長が自らプログラミングを学び、内製チームに移動して活躍した事例があり、豊富な現場経験を基に、コールセンター向けのシステム開発を行っています。MVP(最小限の実用製品)を素早く開発し、現場のニーズに即したシステムを迅速に提供できるような体制が実現できています。
出典:Salesforceブログよりこちらの記事を参照
まとめ
コールセンターにおけるデジタル人材の育成は、今後の競争力維持と顧客満足度向上のために不可欠です。本記事で紹介した育成ステップと企業事例を参考に、各企業の状況に合わせた効果的なデジタル人材育成戦略を立案・実行することが重要です。 デジタル技術の進化は急速であり、一度の取り組みで終わらせるのではなく、継続的な学習と適応が必要です。組織全体でデジタル化への意識を高め、柔軟に対応できる文化を醸成することが、長期的な成功につながるでしょう。
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