【2025年最注目】AIエージェントの導入でコールセンターはどう変わる?概要・課題・事例を徹底解説

2025/04/03

顧客体験の最前線であるコールセンター(コンタクトセンター)は、常に革新の波にさらされています。2025年、その革新の中心として注目されているのがAIエージェントです。自律的に判断・行動ができるAIエージェントは、これまでの自動化システムが持つ弱点を克服し、コールセンター業界の人材不足を根本的に解決する可能性を秘めています。

本記事では、AIエージェントがコールセンター業界にもたらす変革、メリット、実装における課題、そして注目すべき事例を徹底解説します。

AIエージェントとは

AIエージェントとは、自律的に判断・行動し、与えられた目標を達成する人工知能システムです。大量のデータで訓練された大規模言語モデル(LLM)などの生成AIを核に、必要に応じて外部ツールやデータベースを活用しながらタスクを遂行します。

従来のAIがパターン認識や定型応答に留まっていたのに対し、AIエージェントは自ら状況を理解し、適切な手順を組み立てて実行できる点が特徴です。

AIエージェントの仕組み

AIエージェントは以下のような流れで動作します。

  1. 状況認識: 入力情報を理解し、現在の状況を把握します
  2. 処理選択: 目的達成に必要な処理を、事前に用意されたツール群から自律的に判断・選択します
  3. 処理実行: 選択した処理(ツールA・B・Cなど)を呼び出し、実行します
  4. 結果統合: 各処理の結果を統合して最終的な回答を出力します

こうした仕組みにより、AIエージェントは単純なFAQ対応から複雑な問題解決まで、幅広い顧客対応をカバーできるのです。

なぜ、今注目されているのか

2022年末のChatGPT公開を契機に生成AIブームが起き、企業のAI活用は本格化しました。総務省の調査では、日本企業の4割以上が生成AI活用方針を策定済みであり、この生成AIの進展を受けて「より高度な問題解決能力と自律性を持つAIエージェントへの移行」が予測されています​。

実際、OpenAIやMeta、マイクロソフトなどAIトップ企業が口を揃えて「次のトレンドは自律型AI(AIエージェント)」と発言しており、その技術進化に注目が集まっています。 市場規模も急拡大が見込まれ、調査会社Markets and Marketsによれば世界のAIエージェント市場規模は2024年から2030年に9倍以上になるとの予測があります。

顧客サービス分野では、ガートナーの分析でも「カスタマーサービスは生成AI投資が最も進んでいるトップ3領域の一つ」とされ​、2025年には問い合わせの最大65.7%がAIで解決されるとの予測も出ています。こうした背景から、コンタクトセンターがAI導入の実験場と位置付けられるほどAIエージェントへの期待が高まっているのです。

従来の生成AIの活用方法と何が違うのか

項目従来の生成AIAIエージェント
役割文章や画像の生成情報生成に加え、アクションの実行も可能
志向性受動的能動的
知識ベース静的な知識ベースを参照動的に最新情報にアクセスし判断する
CSでの活用方法要約、文章作成問題解決に向けた対話

AIエージェントは単に文章や画像を生成するだけでなく、自ら目的達成のためのアクションを起こせる点で、従来型の生成AI活用と一線を画します。

従来の生成AIは、人間からのプロンプトに応じて回答を返す受動的な使われ方が中心でした。例えば文章要約やチャットボットの定型応答などがこれにあたります。一方、AIエージェントは人間の指示がなくとも目標に向けて能動的に動くことができます。

コンタクトセンター分野での活用も進化しています。2024年までは通話内容の要約生成といった限定的な活用が主流でしたが、2025年からは対話そのものをAIが担う段階に踏み込むと期待されています。

AIエージェントの革新性は、ルールベースのチャットボットや静的FAQ検索では難しかった文脈理解・応答生成を、生成AIの力でダイナミックに行える点にあります。さらに必要に応じて外部システムと連携し、問題解決まで完遂することができます。これにより、単なる回答生成から一歩進んだ、自律的な問題解決が可能になります。

コンタクトセンターでの活用領域

AIエージェントの活用が期待されているコンタクトセンターの活用領域について、具体的に解説します。

AIによるオペレーター支援(エージェントアシスト)

AIがコンタクトセンター業務をサポートする主要機能として、リアルタイム回答支援、知識検索と提示の自動化、対応記録の自動化が注目されています。AIはコンタクトセンターのオペレーターをリアルタイムで支援し、応対品質と効率を飛躍的に向上させることが可能です。

リアルタイム回答支援

リアルタイム回答支援では、通話やチャットでの顧客との対話内容をAIが解析し、オペレーターに最適な回答文や次のアクションを即座に提案します。オペレーターはゼロから返答を考える手間が省けるため応答が迅速化し、回答内容も精度が高まります。

知識検索と提示の自動化

知識検索と提示の自動化においては、AIが製品情報やマニュアル、FAQ、CRM上の顧客データなど関連知識を自動検索し、オペレーターの画面に即座に表示します。オペレーターは必要な情報を探す時間が削減され、対話に集中できます。特に問い合わせ内容が技術的な場合でも、AIが適切なナレッジを引き出してくれるため、新人スタッフでも熟練者に近い対応が可能になります。

対応記録の自動化

対応記録の自動化では、通話後の対応メモ作成やCRMへの入力などの事後処理をAIが自動で行うケースも増えています。生成AIが会話内容を要約して記録し、対応結果をシステムに登録するため、オペレーターの煩雑な事務作業が大幅に削減されます。これにより重要事項の記録漏れ防止にも繋がり、オペレーターは次の顧客対応や高度な課題解決に時間を充てられます。

こうしたエージェントアシストの導入効果は大きく、ある調査では会話AIを導入した企業の94%が生産性向上を実感したとの報告もあります。また、ガートナーは「2025年までにカスタマーサービス組織の80%が生成AIでエージェント生産性とCXを改善する」と予測しています。つまり人間オペレーターとAIの協働が新たな当たり前になりつつあるのです。

AIによる自動応答(チャットボット・ボイスボット)

お問い合わせへの一次対応をAIエージェントが自動応答する取り組みも急速に拡大しています。従来のチャットボットは、決まったシナリオに沿った定型回答が中心でしたが、生成AIの導入により文脈を理解した柔軟な対話が可能になりました。たとえばOpenAIのGPT系モデルを組み込んだチャットボットでは、ユーザーの自由入力に対しても人間らしい応答を生成でき、対話の自然さが飛躍的に向上します。

この結果、24時間365日の自己解決支援が現実味を帯びています。実際、Intercom社の調査では「カスタマーサポートチームの45%がすでにAIチャットボットを活用し、問い合わせの最大30%をAIで解決している」と報告されています。

同様に音声対応のボイスボットも普及が進みつつあります。音声認識と自然言語処理技術を組み合わせたボイスボットは、電話問い合わせに対し人間のオペレーターのように会話しながら回答できます。営業時間外でも対応できるため、顧客は待たされることなく用件を済ませることができ、企業側は有人対応の負荷軽減につながります。

日本においてはまだ導入率は高くありませんが、一部の先進企業では問い合わせの50%以上を自動化しているケースも報告されており、今後数年でチャットボット・ボイスボットの利活用は一気に広がる見通しです。ガートナーも「2027年までにカスタマーインタラクションの14%がAIによって処理される」と予測しており、自己サービス志向の顧客ニーズに応えるべくAIエージェントの役割は ますます重要になるでしょう。

国内外の主なAIエージェントと方針・事例

世界の主要企業は、AIエージェントを活用した顧客サービスの革新を急速に進めています。海外のSalesforce、Google、Zendesk、AWSをはじめ、国内ではソフトバンクなどの企業が、この分野をリードしています。

Salesforce

Salesforceは2023年に発表した「Salesforce Einstein GPT」に続き、Agentforce」という自律型エージェント機能を開発し、自社プラットフォームに統合しました。Agentforceは24時間自律対応する次世代AIエージェントで、問い合わせ内容を理解して適切な回答を返すだけでなく、必要に応じてワークフローを実行する能力も持っています。

日本では富士通がこのAgentforceをサポートデスクに導入し、総問い合わせの約15%をAIエージェントが処理する運用を開始しました。パイロット検証では旧来のEinstein Botよりも少ない手順で正確な回答に到達できることが確認されており​、従来型チャットボットから自律型エージェントへの優位性を示す好例となりました。

出典:富士通のSalesforceサポートデスク対応にAgentforceを採用 AIエージェントの支援によるハイブリッドな労働力で顧客満足度を向上  

Google

Googleはクラウドサービス「Google Cloud」の一機能として、Contact Center AI (CCAI)を提供しています。CCAIには対話型音声ボット「Dialogflow CX」やエージェント支援機能「Agent Assist」などが含まれ、グローバルで多くのコンタクトセンターに採用されています。Googleは対話モデル(PaLM 2 等)を自社内製する強みも活かし、「自然な会話ができるAIエージェント」の精度向上に注力しています。

国内では、ソニーネットワークコミュニケーションズがSCSKのクラウド基盤とGoogle CCAIを連携し、音声ボット応対でオペレーター対応件数を35%削減した事例があります。

出典:【導入事例】Google Cloud の Contact Center AI(CCAI)ソニーネットワークコミュニケーションズ様オペレータ応対件数35%削減!

Zendesk

顧客サポート向けソフトウェアのZendeskも、プラットフォーム内に高度なAIエージェント機能を組み込みつつあります。ZendeskのAIエージェントはチャットやメールなどあらゆるチャネルで24時間365日稼働し、個々の顧客にパーソナライズした回答を即時提供できるのが強みです。また会話フローのカスタマイズやバックエンドシステムとの連携も柔軟で、企業ごとの業務に合わせた応答シナリオを構築できます。

Zendeskは、生成AI技術を活用したボットにより「カスタマーサービス問い合わせの80%以上を自動化し得る」と謳っており、段階的な自動化ロードマップを提示しています。まずFAQ回答で10%自動化、次に対話フロー最適化で20%、バックエンド連携で40%、分析と品質管理で60%…最終的に80%以上を自動化可能としています。

実際にZendeskの顧客である美容サロン企業では、66%の問い合わせを自動対応し月額1.4万ドルのコスト削減を実現しています。AI導入後も顧客満足度93%という高水準を維持しつつ、受付人員を増やさずに店舗数を倍増できたと報告されています。

出典:How Hello Sugar reached a 66% automation rate with Zendesk’s hybrid solution

Amazon Web Service(AWS)

AWSは自社コンタクトセンターサービス「Amazon Connect」を通じてAIエージェントを実装しています。2023年末には、Connectに生成AI機能を本格搭載すると発表しました。具体的には、LLMを組み込んだエージェント支援機能「Amazon Q」が提供され、通話中のオペレーターに対し顧客の意図を理解して最適な回答や次アクションをリアルタイム提案する仕組みです。加えて通話終了後には「Contact Lens」により生成AIで要点サマリーを自動作成し、対応履歴を即座に記録できます。

AWSの戦略は、自社クラウド上でエンドツーエンドのAIコンタクトセンター基盤を提供することにあります。企業はAmazon Connectのクラウド基盤を利用するだけで、高度なAIエージェント機能使えるため、システム開発や設備投資を最小限に抑えつつ最新AIを取り入れられます。結果として、クラウドコンタクトセンターへの移行を後押し、旧来型PBXやオンプレCTIからのリプレイスを促進しています。

ソフトバンク(Gen-AX)

ソフトバンクは2024年、日本マイクロソフトと協業して自社コールセンター業務にAzure OpenAI(GPT-4など)を組み込み、問い合わせ対応の大幅自動化プロジェクトを開始しました。また2024年設立の子会社Gen-AXを通じ、企業向け生成AIソリューション「X-Boost」を提供開始しています。

X-Boostはコンタクトセンターやバックオフィスの問い合わせ対応業務を支援する生成AI SaaSで、2025年度には音声通話にも対応した「自律思考型AI」を提供予定とされています。

親会社のソフトバンクが販売基盤となり、Gen-AXが導入支援やコンサルを担う形で、企業のAIトランスフォーメーション(AX)を包括支援する方針です​。「AIエージェント時代を見据え、あらゆる業務の効率化・自動化を実現する企業向けAIエージェントを展開する」と明言しており​、通信事業だけでなくソリューションプロバイダーとしてAIエージェント市場をリードする構えです。

AIエージェントの実装における課題

AIエージェント導入にあたっては、技術的・組織的な複数の課題が存在します。これらの課題を乗り越えることが、AIエージェントの本格活用の鍵となります。

クラウドネイティブ化の必要性と影響

AIエージェントを本格活用するには、システムのクラウドネイティブ化がほぼ不可欠とされています。生成AIモデルは演算資源を大量に消費し、アップデートも頻繁なため、オンプレミス環境で個別運用するのは非現実的です。クラウド基盤なら、必要なGPUリソースのスケーラビリティや最新AIサービスへのアクセスが担保されます。

特に重要なのは、AIエージェントが外部APIやツールの呼び出しを行う際の柔軟性です。クラウド環境では、AIがリアルタイムで社内システムや各種サービスと連携し、必要な処理を実行できます。

例えば顧客情報の検索、予約システムへの登録、決済処理の実行など、様々な機能をシームレスに呼び出せる点が大きな利点となります。つまり、AIエージェントを最大限生かすためには、社内の基幹システムをはじめとした、あらゆるシステムが外部からAPIなどを通じてアクセス可能な状態である必要があるということです。

RAG対応データベースの必要性と運用課題

AIエージェントが企業内の専門的な質問に正確に答えるには、自社固有の知識データを組み合わせる必要があります。注目されているのがRAG(検索拡張生成)という手法です。RAGでは、生成AIが回答を生成する前段で、関連する社内データベースやドキュメントを検索し、その内容をもとに回答を作ります。これにより汎用モデル単体では困難な最新情報やドメイン知識の反映が可能になります。

ただし、RAGを実現するには高性能な検索システムと整備されたデータベースが前提です。課題の一つは検索精度で、ガートナーも「検索精度が低いと必要な外部情報を引っ張れず回答品質が落ちる」と指摘しています。実運用ではドキュメントのメタデータ管理やベクトルデータベースのチューニングを通じて、検索効率・精度の向上を図る必要があります。

また、機密情報を含む社内データをAIに利用させる際のセキュリティ・権限管理も重要です。権限のない情報までAIが誤って参照・回答しないよう、データ分類やフィルタリングの実装が求められます。さらに、RAGでは検索結果と生成内容の関連性評価も難題です。AIが参照した資料に無い内容を勝手に生成してしまうリスクがあり、回答にどの情報源が使われたかの追跡(出典提示)など説明可能性の担保も課題となります。

人間の役割の再定義

AIエージェント導入が進むにつれ、コンタクトセンターにおける人間オペレーターの役割も大きく変化します。単純で反復的な問い合わせ対応はAIが肩代わりし、人間はより付加価値の高い業務にシフトしていくでしょう。具体的には、AIでは対処しきれない感情を伴うクレーム対応や複雑で創造的な問題解決、さらには顧客へのコンサルティング的提案などが人間オペレーターの中心業務となっていきます。

実際、多くの企業が「AIによって単純な業務が自動化される一方で、人間には共感力や創造力を要する仕事が求められる」と認識しています。AI導入は決して人間を不要にするのではなく、「AIと人間が協働することでそれぞれの強みを発揮するハイブリッドモデルへの移行」だという考え方が重要です。

そのために企業はオペレーターのスキル再定義と育成への注力が必要になります。AI時代に必要とされるのは、ツールとしてAIを使いこなすリテラシーやデータ分析力、そして従来以上に高度なコミュニケーション能力です。例えば生成AIが提示した回答をチェックし補足説明する能力や、AIでは読み取れない顧客の感情変化を察知してケアする能力などが重視されます。

また新たに「AIトレーナー」と呼ばれる職種も台頭しつつあります。これは現場の人間がAIに学習データを与え調整する役割で、チャットボットの対話ログを分析して改善したり、AIの誤答をフィードバックして精度向上させたりする仕事です。

説明可能なAI

AIエージェントが意思決定や提案を行う場面が増えるほど、そのプロセスが人間に説明可能であることが重要になります。従来のルールベースシステムであれば判断根拠は明確でしたが、生成AIはブラックボックス性が高く「なぜその回答に至ったか」が不透明です。しかし顧客対応にAIを使う以上、企業はその回答の根拠を説明できなければなりません。

近年、AIの透明性・説明可能性の欠如が企業のAI導入の障壁になるとの指摘もあり、各社とも対策に乗り出しています。具体策の一つは、前述したRAGのように回答に参照したデータソースを明示することです。回答とともに根拠となるナレッジを提示すれば、利用者も納得感を得られます。

またアルゴリズムレベルでも、どの特徴が結果に最も寄与したのを可視化する技術や生成過程を追跡する研究が進んでいます。さらに社内ガバナンスの観点では、AIの判断に人間が介入・承認するフローを設けてリスクをコントロールすることも重要でしょう。

欧州ではAI規制の動きもあり、透明性や説明責任を法的に義務付ける流れも出てきています。2025年は各社が「説明可能なAI」の実現に注力する年になるとの見方もあり、信頼できるAIエージェント運用のために「AIを理解しながら使う」という姿勢がこれまで以上に重要になっています。

2027年予測:3つのパラダイムシフト

ここからはAIエージェントが発展していくとどうなるのか、少し先の未来についての考察です。

オペレーターの役割転換

今後数年で、コンタクトセンターのオペレーターは「高度な顧客対応のスペシャリスト」へと役割を転換すると予測されます。2027年頃には単純問合せの大半がAIで自己解決され、オペレーターが応対するのは高度化・複雑化した問い合わせやクレーム、あるいは顧客への積極的なコンサルティング提案といった場面に限られている可能性があります。

言い換えれば、センター業務は「AIエージェントが一次対応し、人間エージェントが二次対応する」二層構造へと進化するでしょう。人間エージェントは少数精鋭化し、金融商品や医療など専門知識が必要な相談への対応、重要顧客へのフォローアップ、感情的な訴えへの共感的対処などAIには代替困難な付加価値業務に特化します。

その結果、求められるスキルセットも変わり、オペレーターは業界知識やEQ(心の知能指数)、問題解決力を武器にする「カスタマーコンサルタント」へと近い存在になるでしょう。また他方で、AIを監督・訓練する役割もオペレーターが担うようになります。自ら対応したケースをAIに学習させモデル改善にフィードバックしたり、AIの誤回答をレビューして是正したりするAIトレーナー兼任の位置づけです。

このように「AI×人」ハイブリッド体制が定着すると、人員構成にも変化が生まれます。問い合わせピーク時の増員要請は減り、人件費構造も変わるでしょう。2027年にはコンタクトセンターの人材配置そのものが再定義され、従来型オペレーター職は高度専門職へとアップデートされていると考えられます。

収益センター化するコンタクトセンター

AIエージェントの活用により、コンタクトセンターは従来のコストセンターから収益貢献する部門へと変貌すると期待されています。

まずAIによりオペレーターの負荷が軽減すると、一人ひとりが顧客と向き合う時間が増え、質の高いコミュニケーションが可能になります。その結果、顧客の潜在ニーズを引き出したりアップセルの提案を行ったりと、「単なる問合せ対応を超えた営業的な会話」ができる余地が広がります。

実際、ある大手通信企業ではAIがパスワードリセット等の定型依頼を処理したことでオペレーターの対応余力が生まれ、契約プラン見直し提案による収益向上につながったといいます。

さらに、センター全体のデータをAIが分析して製品やサービス改善に活かす例もあります。顧客との対話ログから新商品のアイデアや不満の原因を抽出し、マーケティング戦略にフィードバックするといったナレッジセンター的な役割です。

ガートナーは「2026年までに対話AIによりコンタクトセンターのコストが800億ドル削減される」と予測する一方、企業は単なるコスト削減以上の価値創出をAIに求め始めています。2027年には「顧客接点で収益を生み出す戦略拠点」としてコンタクトセンターが位置づけられ、そこを統括する役割には従来とは異なるKPI(顧客生涯価値向上や売上寄与)が課されているかもしれません。

AI倫理オフィサーの台頭

AI導入が進むにつれ、企業内にAIの倫理的な運用を専任で監督する責任者が不可欠になるでしょう。生成AIは便利な反面、誤情報の生成や偏見の増幅、データ漏洩などリスクも抱えています。そこで注目されるのがAI倫理オフィサーの役割です。現在でも一部の先進企業では任命が始まっていますが、2027年には多くの大企業で設置が一般化すると考えられます。

AI倫理オフィサーは、社内でAIを利用する際の原則やポリシーを定め、AIシステムが社会や顧客に与える影響を評価・監督する責任を負います。具体的には、AIの判断基準が差別的でないか検証したり、生成AIが吐き出すコンテンツをチェックする仕組みを作ったり、データの取扱いがプライバシー規制に反していないか確認したりといった業務です。

同時に各国のAI関連法規を把握し、社内AI活用がコンプライアンス違反とならないよう指針を示す役割も担います。例えば、欧州のAI規則や日本のAIガイドラインに沿って、コンタクトセンターでのAIエージェント応対範囲を規定する、といった具合です。

またステークホルダー対応も重要で、顧客から「AI対応は信用できるのか?」と問合せがあれば説明責任を果たし、社内でAI導入に不安を持つ従業員には教育を行うなど、調整役としての働きも期待されます。2027年には多くの企業でAI倫理委員会の設置やこの役職の新設が進み、AIエージェント活用を裏側で支える存在として重要性を増していくと考えられます。

AIエージェントのまとめ

生成AIの進化により、顧客対応業務は効率化だけでなく質的向上も実現しつつあります。同時に、この技術を最大限活用するためには技術基盤の整備やガバナンス体制の確立が不可欠です。

今後数年間で、AIと人間の役割分担は明確化し、それぞれの強みを活かした協働モデルが確立されるでしょう。人間オペレーターはより高度な専門性を発揮する方向へと進化し、コンタクトセンター自体もコスト削減の場から収益創出の拠点へと変貌する可能性を秘めています。

一方で、AIの急速な普及に伴い、倫理的・法的枠組みの整備も急務となっており、企業内でこれを専門的に担う役割も重要性を増していくことでしょう。AIエージェントの活用は単なる技術導入を超え、ビジネスモデルや組織構造の根本的な変革につながる大きな潮流となっています。

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Writer編集者情報

  • コネナビ編集部 平井 美穂

    2012年、株式会社セントメディア(現:株式会社ウィルオブ・ワーク)へ入社し、コールセンターとオフィスワークに特化した人材サービス事業部に配属。大手携帯キャリアのコンタクトセンターにて、カスタマーサポートを行いながら、自社派遣社員のサポートやフォローに努める。CSを2年経験した後、営業コーディネーターやキャリアアドバイザー、転職支援など幅広い業務を経験。現在は、2人のこどもを育てるワーキングマザー。

    ・趣味:森林浴、神社巡り、アートに触れること
    ・特技:細かい点に気が付くところ

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