ハラスメントとは│企業が講じるべき対策について解説

2026/01/29

現代の職場では、ハラスメントに関する相談や問題が年々増加しており、単なる個人間のトラブルではなく、企業の運営上の重大なリスクとして捉えられています。昨今の法整備や社会的要請の変化があり、ハラスメントへの理解と対応が組織の信頼性や働きやすさに直結する時代になってきています。

本記事では、ハラスメントの基本的な定義や事例を説明し、なぜ今ハラスメント対策が注目されているのかを解説。専門的な法令や厚生労働省のガイドラインを参照しながら、企業担当者が知っておくべきポイントと講じるべき対策についてわかりやすく説明しますので、ぜひご覧ください。

ハラスメントとは

ハラスメントの意味と定義

「ハラスメント」とは、一般的に嫌がらせ・いじめ・理不尽な言動によって相手に不快感や苦痛を与える行為を指します。

職場におけるハラスメントは、労働者の就業環境を害する行為として扱われ、働き方や組織運営に深刻な悪影響を及ぼしかねません。

厚生労働省が運営する「あかるい職場応援団」では、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントのほか、妊娠・出産・育児休業などに関するハラスメントなど、職場で問題になりうる行為について解説されています。

中でもパワーハラスメント(パワハラ)は、職場における代表的なハラスメントとして定義が明確されています。厚生労働省の指針では、次の3つの要素をすべて満たすものをパワハラとしています。

  • 優越的な関係を背景とした言動
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  • 労働者の就業環境が害されること

(労働施策総合推進法、パワハラ防止指針

客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

ハラスメント=個人の受け取り方だけではない理由

しばしば「ハラスメントかどうかは受け取る側次第」と捉えられることがありますが、職場におけるハラスメントの判断は、個人の主観のみに委ねられるものではありません。

厚生労働省が示す基準では、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるかどうか」という、客観的な視点が重視されています。

つまり、ハラスメントに該当するかどうかは、被害を受けた本人の感じ方だけでなく、社会通念に照らした客観的評価も踏まえて判断されるという考え方が基本となっているのです。

ハラスメントが注目されている背景

法改正・指針の強化(パワハラ防止法など)

ハラスメント対策が重要視される理由の一つに、法制度の整備が進んでいる点が挙げられます。特にパワーハラスメントに関しては、2019年6月に成立した改正「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実などに関する法律」(通称:パワハラ防止法)が基礎となっています。

この法律の施行に伴い、企業はパワハラ防止のための雇用管理上の措置を講ずることが義務づけられました 。大企業では2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から順次施行されています。

パワハラだけでなく、セクシュアルハラスメントや、妊娠・出産・育児休業などに関するマタニティハラスメントについての防止対策も同様に企業の義務としています。

参考:
あかるい職場応援団
職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!

組織の信頼性・採用力・職場環境への影響

ハラスメントへの対応が企業の評判や採用力に直結するという認識も、近年強まっています。

ハラスメントの放置は、従業員の心理的安全性を損ない、離職率の上昇や生産性の低下につながる可能性があります。心理的安全性とは、従業員が失敗や意見表明を恐れずに行動できる職場の状態を指し、その欠如は組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことが指摘されています。

また、近年は採用活動においても「働きやすさ」「組織風土」が重視される傾向にあり、ハラスメント対策を積極的に行っている企業は応募者にとって魅力的な職場として映ります。特に若手求職者に顕著な傾向であり、企業のブランディング戦略の一部としても有効です。

このように、ハラスメント対策は単なる「コンプライアンス対応」ではなく、企業の信頼性・採用力・職場環境の改善に直結する重要な経営課題となっています。

よくある職場のハラスメントの種類

職場で起こるハラスメントには多様な種類がありますが、中でも企業対応が求められる代表的なものを解説します。

パワーハラスメント(パワハラ)

パワハラは、職場の優越的な関係の中で業務上必要かつ相当な範囲を超える言動により、労働者の就業環境を害する行為です。

具体例:

  • 身体的な攻撃(暴行・障害)
  • 精神的な攻撃(名誉棄損・侮辱・ひどい暴言・人格否定など)
  • 人間関係からの切り離し(仲間はずし・無視)
  • 業務範囲を超えた過大な要求・過少な要求(遂行不可能な業務の強要・仕事をさせないなど)
  • 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

セクシュアルハラスメント(セクハラ)

セクハラは、意に反する性的な言動や行為により、不利益や就業環境の悪化をもたらすハラスメントです。厚生労働省のガイドラインでも取り上げられており、職場環境に関与します。

具体例:

  • 性的な言動や身体的接触
  • 食事やデートへの執拗な誘い
  • 性的要求に応じない場合の不利益な扱い など

マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ)

マタハラは妊娠・出産・育児休業の利用を理由に不利益な扱いをする行為です。女性が対象になりやすいマタハラに加え、育児休業を取得する男性への嫌がらせ(パタハラ)も含まれます。

具体例:

  • 妊娠報告後の降格や配置転換
  • 育児休業取得に対する嫌味や抑制
  • 妊娠を理由に仕事の割り振りに差をつける など

モラルハラスメント(モラハラ)

モラハラは、明確な法令上の定義はありませんが、心理的な虐待や無視、侮辱、過度な批判などの言動全般を指す用語として使われます。パワハラやセクハラに含まれない場合でも、職場環境の悪化や生産性低下の要因になり得ます。

具体例:

  • 無視・会話の拒否
  • 侮辱的な言葉や人格否定
  • 日常的な嫌味・陰湿な態度 など

カスタマーハラスメント(カスハラ)

カスタマーハラスメントは、顧客や取引相手の立場を利用し、従業員への理不尽な要求や悪質な言動を繰り返す行為です。昨今法改正により、防止措置が事業主の義務として明文化される予定です。

具体例:

  • 身体的な攻撃や脅迫
  • 不当な値引き要求や土下座の要求
  • 威圧的な言動や差別的な言動 など

参考記事:
労働施策総合推進法 一部改正でハラスメント対策強化
ハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務 ハラスメント対策の法制化

ハラスメントが起きやすい職場の特徴とは?

ハラスメントは個人の性格や価値観だけでなく、職場環境や組織体制が要因で発生するケースも少なくありません。本章では、ハラスメントのリスクが高まりやすい職場の共通点を紹介します。

過重労働や業績悪化によるストレス環境

過重労働や残業の常態化、休暇が取りづらい職場では、従業員のストレスが蓄積しやすく、攻撃的な言動が出やすくなります。
また、業績不振により現場にプレッシャーがかかると、感情的な指導や責任転嫁が生まれやすくなるため、心理的安全性の低下とともにハラスメントの温床となり得ます。

管理職のマネジメント不全

役割分担や評価制度が曖昧で、管理職が適切な支援を受けられていない職場では、行き過ぎた指導や属人的な対応が発生しやすくなります。
「任せきり」「放任型マネジメント」など、マネジメントの機能不全がハラスメントのリスクを高めます。

コミュニケーション不足と閉鎖的な風土

上司・部下間での報連相が少ない、相談しにくい雰囲気の職場では、問題があっても指摘されずに放置されがちです。
風通しの悪さや人間関係の希薄さは、ハラスメントが表面化しにくく、深刻化を招く要因となります。

ハラスメント対策・教育が不十分

社内に防止方針や研修制度、相談窓口が整備されていない職場では、「何がハラスメントに該当するのか」が浸透せず、無自覚な言動や誤った指導が繰り返されやすくなります。
厚労省の指針でも、こうした体制の整備は事業主の義務とされており、未整備のままでは組織全体のリスクが高まります

企業が取り組むべきハラスメント対策と対応フロー

ハラスメントを防ぎ、安全で働きやすい職場を実現するには、「未然に防ぐ」「制度を整える」「発生時に適切に対応する」の3つの視点が重要です。
本章では、厚生労働省のガイドラインや弁護士・社労士の解説を参考に、企業が取り組むべき施策を解説します。

未然防止に向けた教育・意識醸成

ハラスメントは「起きてからの対応」では遅く、防止に向けた土壌づくりが第一です。
厚労省の「パワーハラスメント防止対策が事業主に義務化されます」(令和2年施行)では、以下のような継続的な教育・研修の実施が推奨されています。

  • 全従業員向け:ハラスメントの定義や事例、相談方法を周知
  • 管理職向け:指導とハラスメントの違い、部下対応の留意点を学ぶ
  • 研修形式:eラーニング、ロールプレイング、事例研究など

特に管理職研修の質が、組織風土に大きな影響を与えるため、外部講師の活用も有効です。

参考:
 厚生労働省 ハラスメント対策総合情報サイト
パワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!

ハラスメント方針・規程の整備

次に、企業としての姿勢を明文化することも不可欠です。
以下のような規定の整備が、従業員への明確なメッセージになります。

  • ハラスメント防止方針の明文化(就業規則・社内掲示・周知など)
  • 相談窓口と対応フローの明示
  • 再発防止措置の実施

また、社内イントラや入社時資料に盛り込み、定期的な周知を行うことで形骸化を防ぎましょう。

参考:ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置

相談窓口の設置と周知

万が一ハラスメントが発生した際に、従業員が安心して声を上げられる体制を整えておくことは、組織運営上の必須事項です。

「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)に基づき、事業主には、ハラスメントに関する相談に応じ、適切に対応するための体制整備(相談窓口の設置等)が義務付けられています。

相談・通報窓口を設ける際には、次の点に留意するとよいでしょう。

  • 社内外に複数の窓口を設ける(例:人事部門、直属または別系統の上司、産業保健スタッフ、外部の社労士・弁護士・カウンセラーなど)
  • 相談者の匿名性・中立性・秘密保持を可能な範囲で確保し、「不利益な取り扱いは行わない」ことを明示する
  • 「相談=すぐ処罰」ではなく、事実確認や状況に応じた配慮・是正措置など、段階的な対応プロセスであることをあらかじめ周知しておく

「相談したら相手がすぐ処分されるのでは」「職場にいづらくなるのでは」といった不安は、相談のハードルを高めます。相談窓口は“懲戒の入口”ではなく、“状況を安心して共有し、解決策を考える場”であることを明確に伝えることが大切です。

また、相談件数が少ないからといって、ハラスメントがないとは限りません。相談しづらい雰囲気や報復への恐れがある職場では、深刻な問題があっても表面化しないおそれがあります。むしろ「気になった段階で早めに相談が上がる」ことを、組織の健全性の一つの指標と捉えるべきです。

相談窓口の設置にとどまらず、「相談しやすい風土」と「声を上げても守られるという信頼感」を育てることが、ハラスメント防止と早期発見の鍵になります。

ハラスメント発生時の対応フロー

事実確認と記録の取得

トラブルが発生した際は、冷静な事実確認と証拠の保存が重要です。

以下の点を押さえて対応します。

  • 被害を申し立てた側・指摘を受けた側の双方からのヒアリング
  • 日時・場所・具体的な言動などの記録(音声、チャット、メール、メモ等)
  • 第三者による立ち会い、記録様式の統一

「感情ではなく客観的な事実に基づいて対応する」ことが、企業を守り、公平性を担保するカギとなります。

被害者保護と加害者対応

事実確認の過程で、被害者がこれ以上の苦痛を受けないよう、環境面の調整を行います。

  • 勤務シフトや担当業務・部署の一時的な調整
  • 行為者への注意・指導、必要に応じた処分や研修命令
  • 重大事案の場合の第三者委員会の設置・調査

同時に、行為者とされる側の主張や名誉にも配慮し、慎重かつ中立的な姿勢で対応することが、組織への信頼を損なわないポイントです。

再発防止と職場復帰支援

個別の事案対応だけで終わらせず、組織全体の改善につなげることが重要です。

  • 事案を特定できない形に匿名化したうえで、社内への共有・教育に活用する
  • 外部専門家による職場環境診断やアセスメントの実施
  • 被害者の職場復帰支援(産業医・人事・上司との連携によるフォロー)

こうした再発防止策と復帰支援を継続的に行うことで、安心して働ける職場づくりにつながります。

ハラスメント対策による組織のメリット

ハラスメント対策は、単なる「リスク管理」にとどまりません組織の成長や人材戦略の土台となり、長期的な競争力の向上にも大きく寄与します。

離職防止と定着率の向上

心理的安全性の高い職場では、従業員満足度が向上し、離職率の低下につながることが多くの調査で報告されています。とくに若手社員や女性従業員の定着において、その効果は顕著です。

参考:
厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年)

採用力・ブランド力の向上

近年は、求職者が応募前に企業のハラスメント対策や職場環境を重視する傾向が強まっています。採用サイトや求人票で具体的な対策を明示することは、「安心して働ける企業」としての差別化につながり、採用力の強化や企業ブランドの向上に直結するでしょう。

生産性の向上とチームの一体感

ハラスメントのない職場では、従業員が安心して発言・相談・挑戦できる文化が育ちやすくなります。その結果、創造性やチームの一体感が高まり、生産性向上にもつながります。

とくに近年注目されているのが、「心理的安全性(Psychological Safety)」という概念です。これは、GoogleやIDEOなどの先進企業が、高パフォーマンスなチームづくりに不可欠な要素として重視している考え方であり、「ハラスメントを許さない職場づくり」と深く結びついています。

ハラスメントについてのまとめ

ハラスメント対策は、もはや一部の業種や役職の課題ではなく、すべての職場における共通の経営課題です。「誰もが安心して働ける環境」を整えることは、企業の持続的成長と人材確保に直結する重要な取り組みといえます。

とくに、2024年4月から全企業に拡大適用されたパワーハラスメント防止法や、カスタマーハラスメント対策の法整備議論など、ハラスメント対策をめぐる社会の動きは加速しています。「まだ問題が起きていないから大丈夫」と考えるのではなく、「起きないよう仕組みとして整備する」ことが、これからの企業に求められる姿勢です。 ハラスメント対策は「守り」の施策にとどまらず、「組織の力を引き出す攻めの経営戦略」として、主体的に取り組んでいきましょう。

Writer編集者情報

  • コネナビ編集部 平井 美穂

    2012年、株式会社セントメディア(現:株式会社ウィルオブ・ワーク)へ入社。
    コールセンターとオフィスワーク領域に特化した人材サービスに従事し、カスタマーサポートをはじめ、営業やキャリアアドバイザーなど幅広い職務を経験。
    現場で培ったCS対応力と人材支援の知見を軸に、採用や運営における課題解決を支援。
    2022年からは、コンタクトセンター業界の情報サイト「コネナビ」編集部の責任者として、業界の課題に寄り添う情報発信を推進。
    企業向けメディア「コネナビ」と求職者向けメディア「コネワク」を通じて、ユーザーの課題解決と業界の成長に貢献することを目指している。

    趣味: 森林浴、神社巡り、アートに触れること
    特技: 細かい点に気づくこと

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