AIマネジメントシステムとは?国際規格ISO/IEC 42001の概要と導入ステップ
2025/05/27
- コスト削減
- システム導入
- 品質向上
- 業務効率化
- 顧客満足度向上

チャットボットやボイスボット、自動応答ツールの導入が進む中、コールセンターをはじめとした多くの現場で、AIは業務効率化や顧客対応の高度化に欠かせない存在となっています。
しかし一方で、「そのAIは信頼できるのか?」「判断の根拠は説明できるか?」といった懸念も浮上しています。
こうした背景から、AIの運用体制を企業レベルで整備するための国際規格として登場したのが「ISO/IEC 42001」です。
本記事では、AIマネジメントシステムの基本概念から、ISO/IEC 42001の概要と導入メリット、そして認証取得の具体的なステップまでを解説します。
AIマネジメントシステムとは?
AIマネジメントシステムとは、企業や組織がAI技術を社会的・倫理的責任をもって活用するための「管理体制・運用フレームワーク」です。これは単なるITツールの導入ではなく、AIの開発・導入・運用・評価までを一貫して管理するための方針や手順を整え、AIが引き起こす可能性のあるリスクを予防・制御する組織的な仕組みを意味します。
AIと人間が協働する社会においては、「AIの判断に誰が責任を持つのか」「どのような基準で判断がなされたのか」といった透明性・信頼性の確保が重要であり、マネジメントシステムはその基盤としての役割を果たします。

注目される背景と社会的ニーズ
AIは、予測分析、音声認識、画像判別、自然言語処理など、さまざまな分野で活用が進んでおり、業務の効率化や生産性の向上に大きな貢献をしています。一方で、「アルゴリズムの透明性」「判断根拠の説明責任」「データの偏りによる差別リスク」といった懸念も浮き彫りになってきました。
このような背景から、単なる技術導入だけでなく、リスク管理・倫理配慮・法令順守といった要素を統合した運用体制の整備が求められています。特に、個人情報を取り扱う業界や公共性の高いサービスを提供する企業では、「AIが安全かつ信頼できるか」を担保する仕組みづくりが急務となっています。
国際規格「ISO/IEC 42001」とは
ISO/IEC 42001は、2023年12月に国際標準化機構(ISO)および国際電気標準会議(IEC)によって制定された、AIマネジメントシステム(AIMS)に関する初の国際規格です。この規格は、企業や組織がAIを責任ある形で開発・利用するための枠組みを示し、「安全で説明可能なAI」の社会実装を促進することを目的としています。

ISO/IEC 42001は、AIに関するリスクや社会的影響に対する国際的な懸念が高まる中で誕生しました。倫理的課題や透明性の確保、AIの継続的学習といった特有のテーマに対応しながら、ガバナンスとイノベーションの両立を実現する管理体制のあり方を提示しています。
その結果、AI特有の倫理的課題、透明性、継続的学習といった問題に対応し、組織がイノベーションとガバナンスのバランスを保ちながらAIに関連するリスクと機会を管理できる構造的な方法を示しています。
さらにこの規格は、品質マネジメントシステム(QMS)規格(ISO9001)や情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)規格(ISO/IEC 27001)と親和性のある構造となっており、既存のマネジメントシステムとの統合運用も可能です。
ISO/IEC 42001の内容構成

ISO/IEC 42001は、以下のような章立てで構成されています。
- 第1~3章:適用範囲、用語の定義
- 第4~10章:組織の状況、リーダーシップ、計画、支援、運用、パフォーマンス評価、改善
これらはPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)に準拠しており、技術的要素と社会的責任の両面から、AI運用の信頼性や説明責任を確保する仕組みとして機能します。
ISO/IEC 42001のポイント
ISO/IEC 42001の特長は、「どのようなAI技術にも適用できる」点にあります。ディープラーニングや機械学習はもちろん、自然言語処理、画像・音声処理、生成AI、データ分析、ロボティクスなど、あらゆるAIシステムのマネジメントに対応可能です。
コンタクトセンター業界においては、顧客応対に用いられるチャットボットやボイスボット、AI音声認識などが対象となるケースが多く、これらの設計・運用における透明性・説明責任が求められるようになります。
ISO/IEC 42001は、そうしたAI活用の信頼性を担保するための指針として活用でき、顧客満足度の向上やクレーム対応リスクの軽減にも寄与する枠組みとなるでしょう。
ISO/IEC 42001を導入するメリットは?
ISO/IEC 42001の導入には、単なる認証取得にとどまらず、組織全体のAI活用レベルを高め、信頼性の高いAI運用を実現するための多くのメリットがあります。
本章では主に3つの観点から、その利点を解説します。
リスク管理と信頼性向上
AIの活用には、「データの偏りによる不公正な判断」や「想定外の動作によるトラブル」など、さまざまなリスクが伴います。
ISO/IEC 42001に準拠したAIマネジメントシステムを導入することで、これらのリスクを事前に特定・評価し、制御する体制を構築できます。 さらに、透明性や説明責任(アカウンタビリティ)を明確にする仕組みが整うことで、社内外に対し「安心して使えるAI」であることを示すことができ、企業としての信頼性向上にもつながります。
企業イメージと顧客信頼の獲得
ISO/IEC 42001への準拠は、企業がAIの責任ある活用に取り組んでいる証拠でもあり、企業の社会的責任(CSR)やガバナンスの観点からも高く評価されます。
特にコンタクトセンターなど顧客接点の多い現場では、AIによる応対の公平性・正確性への信頼が、顧客満足度(CS)を左右します。
ISO/IEC 42001に準じた運用を行うことで、「この企業のAIは信用できる」という評価につながり、顧客・取引先・投資家などからの信頼性を高める材料となるでしょう。
▼顧客満足度(CS)に関する記事はこちら
「コールセンターでの顧客満足度(CS)とは?定義から向上方法まで徹底解説」
業務効率化と意思決定の質の向上
AIマネジメントシステムの導入は、業務の自動化・効率化を後押しするだけでなく、収集されたデータを活用した高度な分析や意思決定支援を可能にします。
これにより、業務スピードと精度が向上し、人的ミスの削減にもつながります。
コンタクトセンターの現場では、以下のような活用が想定されます。
- 問い合わせ内容の自動分類
- 応対中のオペレーター支援(リアルタイム提案など)
- 応対品質の均質化・可視化 など
これらの取り組みにより、現場の負担を軽減しながら顧客満足度を高めるAI運用が実現できるでしょう。
ISO/IEC 42001認証取得までの流れ
ISO/IEC 42001の認証取得は、単に文書を整えるだけでなく、実際にAIを安全・信頼性高く運用する体制が整っているかを総合的に審査するプロセスです。以下は一般的な取得の流れです。

1. AIマネジメントシステムの開発と導入
まず、ISO/IEC 42001の要求事項に基づき、AIの倫理性・安全性・信頼性・透明性を確保するための方針・手順・管理策を整えたAIマネジメントシステムを構築します。
これにより、AI活用に伴うリスク管理や法令遵守体制を整備します。
2.ギャップ分析の実施
構築したマネジメントシステムが規格の要件を満たしているかを確認するため、現状と規格との間にどんな差があるか(ギャップ)を分析します。
ここで浮き彫りになった課題をもとに、改善計画を策定します。
3. 内部監査の実施
社内でマネジメントシステムの運用状況や有効性をチェックするため、内部監査を行います。
不備の早期発見と是正により、審査に向けた体制強化と継続的改善を進めます。
4. 外部審査の実施(LRQA等による審査)
認証機関(例:LRQAなど)による本審査では、文書レビューや現地視察、担当者へのヒアリングを通じて、マネジメントシステムの実効性や規格適合性が評価されます。
5. 不適合への対応
外部審査で不適合が見つかった場合は、是正措置を講じて再発防止策を整える必要があります。
速やかな対応は、認証取得だけでなく、その後の運用信頼性の維持にもつながります。
6. ISO/IEC 42001認証の取得
すべての要求事項を満たしたと判断されると、正式にISO/IEC 42001の認証が付与されます。
これは、組織が倫理性・透明性・安全性を備えたAI運用体制を第三者機関により認定された証明となり、対外的な信頼の獲得や競争力の向上に直結します。
認証はゴールではなくスタートです。認証取得後も、継続的にシステムを監視・評価・改善し、更新審査に備える必要があります。
これにより、AI運用の質と信頼性を継続的に維持できます。
まとめ|AIマネジメントは競争力の鍵に。今こそ体制整備を
AIの進化と社会実装が加速する中、企業には倫理性・透明性・安全性を担保したAI活用が、これまで以上に求められています。
ISO/IEC 42001は、こうした社会的要請に応えるための国際的な指針であり、AI技術を安心・安全にビジネスへ取り入れるための「土台」となるマネジメントシステムです。
特にコンタクトセンター業界では、AIチャットボットや応対支援ツールの導入が進んでおり、対応の品質や公平性が企業の信用力に直結する時代です。ISO/IEC 42001の導入は、これらのAI活用を計画的かつ一貫性をもって管理し、リスクの最小化と成果の最大化を両立させる手段として期待されています。
AIの利活用が広がる今だからこそ、「信頼できるAI運用」を実現する体制の整備が、企業の持続的な成長と競争優位のカギを握ります。
未来志向のAI活用を目指すなら、今こそISO/IEC 42001の導入に向けた一歩を踏み出す時です。
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Writer編集者情報
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コネナビ編集部 上原 美由紀
従業員1万人以上の企業の5社に1社が導入している採用支援・求人広告会社にて、アルバイト・パート採用や中途採用を中心に、約3年間にわたり企業の採用支援に従事。
2019年9月より株式会社ウィルオブ・ワークに入社し、コールセンター・オフィスワークに特化した人材サービスの事業部でキャリアアドバイザーを担当。現場で培った知見をもとに、コンタクトセンター領域はもちろん、採用・人材分野に関する実践的かつリアルな情報発信を心がけている。
現在は子育てと仕事を両立しながら、日々奮闘中!
趣味:音楽、ゲーム、ディズニー、お酒
特技:タスク管理