【2025年11月最新】インバウンド型コールセンターAI-BPOサービス4社比較 │ 各社の特徴を紹介

2025/11/07

近年、コールセンター業務における人手不足の深刻化や応対品質のばらつきが課題となる中で、AIを活用した業務委託(BPO:Business Process Outsourcing)の動きが加速しています。
特に、顧客からの問い合わせ対応を担うインバウンド型コールセンターでは、AIによる自動応答や有人オペレーターとのハイブリッド運用を組み合わせた「AI-BPO」が急速に普及しつつあります。

本記事では、日本国内で影響力のある主要BPO/コールセンター事業者を中心に、各社のAI-BPOサービスを比較します。各社のAI-BPOサービスを比較し、各社の特徴やAIと人の共存設計・技術構成・代表的な導入事例などをわかりやすく紹介します。

なぜ今「AI-BPO」が注目されているのか

コールセンター業界では、深刻な人手不足が続いています。採用難に加え、オペレーターの離職率の高さ、問い合わせ件数の増加、そして応対品質のばらつきなど、現場の課題は複雑化しています。こうした背景のもと、AI技術を活用して業務を効率化する「AI-BPO」が注目を集めています。

BPOとは、本来企業の一部業務を外部に委託する仕組みを指します。従来のBPOでは人材の確保や教育が中心でしたが、AI-BPOではAIを組み込み、一次対応やデータ処理などを自動化することで、業務効率と品質の両立を図ります。
特に、顧客からの問い合わせに対応するインバウンド型コールセンターでは、AIがオペレーターを支援したり、シンプルな質問には自動で応答したりするなど、AIと人が共存する運用モデルが急速に広がっています。

ChatGPTをはじめとする生成AIの普及も、この流れを大きく後押ししています。かつては「AIが顧客と自然に会話する」ことは難しかったものの、今では自然言語理解や音声認識、感情分析の精度が飛躍的に向上し、現場運用に耐えうる品質を実現できるようになりました。こうした技術進化によって、AIは単なる自動応答ツールではなく、顧客体験(CX)を支える重要なパートナーへと進化しています。

AI-BPOの仕組みと特徴

AI-BPOの基本構造は、音声認識自然言語理解音声合成といったAIモジュールを中心に、CRMRPAなどの既存業務システムと連携する形で設計されています。顧客が電話をかけるとAIが内容を理解し、FAQデータベースやシステムを参照して回答を生成。必要に応じて音声合成で返答し、さらに判断が必要なケースはスムーズに人間のオペレーターへ引き継ぎます。

AI-BPOの最大の特徴は、「AIと人の共存」を前提とした運用設計にあります。AIは24時間稼働し、定型的な問い合わせや情報照会などの“繰り返し作業”を高い精度で処理します。一方で、人は感情的な対応クレーム処理など、AIでは難しい領域に集中することで、業務全体の生産性と応対品質を両立させます。

また、AIによって蓄積される通話データや会話ログは、センター運営の改善にも活用されています。どのような問い合わせが多いのか、どの回答で満足度が高いのかを定量的に分析し、シナリオの改善やFAQ更新へと反映することができます。これにより、AIが“使い捨て”ではなく“成長する業務基盤”として機能していく点も、AI-BPOならではの特徴です。

国内4社のAI-BPO比較

ここからは、日本国内でAI-BPOの導入・提供を先導している4社を取り上げ、それぞれの特徴や仕組みを解説します。どの企業もAIと人の共存を重視していますが、その設計思想や技術構成、得意領域には明確な違いがあります。

ベルシステム24

ベルシステム24は、国内コールセンター業界のリーディングカンパニーとして知られています。同社のAI-BPOは、単にAIを導入するのではなく、AIと人の役割を構造的に再定義するという明確な思想を持っています。その象徴的なコンセプトが「Hybrid Operation Loop(HOL)」です。

HOLは、AIが定型・反復的な問い合わせを処理し、人が高難度・高感情領域を担うという基本設計を軸にしています。しかし特徴的なのは、AIの応答データを人が分析・改善し、その結果をAIが学習するという“ループ構造”を組み込んでいる点です。AIと人が互いの出力を高め合い、運用の精度を継続的に改善していく。これがベルシステム24の描くAI-BPOの理想形です。

技術的には、同社は早くからIBM Watsonを採用し、対話型IVRの自動化を進めてきました。近年ではAzure OpenAIのGPTモデルを活用した生成AIソリューションへと進化し、問い合わせ内容に応じて根拠情報を自動で提示する「Hybrid RAG(検索拡張生成)」を導入しています。この仕組みにより、自治体や金融機関など、誤回答リスクを最小化しながら自動化を進めたい組織に適しています。

実際に、自治体向けの「生成AI応答サービス」では、住民からの問い合わせにAIが即時回答し、必要に応じて人間の担当者へ引き継ぐモデルを構築しました。自治体特有の文書やFAQを参照するため、AIが回答の根拠を明示できる点が高く評価されています。同社は「2026年までに応対業務の完全自動化と人員の半減を実現する」という大胆な目標を掲げていますが、その背景には、AIと人の共進化を前提にした運用思想があります。

ベルシステム24のAI-BPOは、単なる自動化ではなく「業務デザイン」としてのAI導入を志向しており、品質と効率の両立を戦略的に設計している点で群を抜いています。

マスターピース・グループ

マスターピース・グループは、長年にわたりBPOとコールセンター運営を手掛けてきた企業で、AI活用においても独自の視点を持っています。2025年に発表した「AI-BPO Agent」は、複数のAIエージェントが協調して業務を遂行するという新しい構想に基づいています。

AI-BPO Agentでは、問い合わせ内容を振り分ける「ルーティングエージェント」、顧客情報をヒアリングする「聞き取りエージェント」、要約や報告を担当する「サマリーエージェント」など、複数のAIが役割を分担しています。それぞれが特定のタスクに特化することで、全体としてスピーディかつ精度の高い応対を実現しています。必要に応じて人間のオペレーターが補完し、AIと人が互いにカバーし合う協働体制を整えています。

同社は生成AIを活用してFAQ生成やメール応答の自動化にも取り組んでおり、KARAKURI assistと連携した導入事例では、メール返信の下書き生成と内容要約をAIが担うことで、対応時間を大幅に短縮しました。人がゼロから書くのではなく、AIが提案した内容を確認・修正するフローに変えることで、応対品質を維持しながら生産性を向上させています。

マスターピースのAI-BPOは、単なる自動化ツールではなく、AIをチームの一員として設計し、業務そのものを再構築する取り組みです。人とAIが共に働く新しいオペレーションモデルの先駆けといえるでしょう。

トゥモロー・ネット

トゥモロー・ネットは、AIを中核としたCXプラットフォームを展開し、2023年7月に、独自開発の対話AI「CAT.AI」を活用するコンタクトセンター「ICXセンター(Innovative Customer eXperience Center)」を開設しました。

このICXセンターでは、ボイスボットとチャットボットが同時に稼働できるCXマルチモード構成を採用し、さらに運用データの分析・学習データの作成・品質管理といった改善活動を「人+AI」で一気通貫に提供する体制を整えています。具体的には、対話ログから離脱要因や未解決要因を抽出し、学習用教師データを作成。AI応答・有人転送・改善サイクルを継続的に回すことで、AI応答品質やCXの向上を狙っています。

チャネル対応も柔軟で、電話だけでなくチャットを経由した対話まで一元化可能です。CRM連携・履歴反映を含む運用基盤と組み合わせることで、どのチャネルで問い合わせがあっても一貫した対応を実現できます。また、2025年10月には、CAT.AIマルチAIエージェントに「Voice LLM」機能を新搭載し、音声応対と生成AIを融合させた次世代対応を正式にリリースしています。

以上のように、トゥモロー・ネットのAI-BPOサービスは、チャットと電話を融合し、運用・品質改善の仕組みをAI+人で回す「次世代コンタクトセンターモデル」を具現化しており、特にマルチチャネル・顧客体験重視のインバウンド運用において大きな注目を集めています。

アルティウスリンク

アルティウスリンクは長年にわたりコールセンター運営およびBPOサービスを提供してきた老舗企業ですが、2025年9月にPKSHA Technologyとの協業による「高機能AIエージェントを活用したバックオフィスBPOサービス」の提供準備を開始したと発表しました。

この取り組みの狙いは、経理・人事・購買などのコーポレート業務、ITヘルプデスクなどのバックオフィス領域において、AIエージェントとBPO運用を一体化して高度化・効率化を図ることにあります。背景には、労働人口の減少や採用難に加え、業務量・対応品質・可用性を同時に満たす必要性が高まったという課題があります。

具体的には、AIエージェントを業務フローに組み込む際の設計、権限設計、ナレッジ管理、さらにAIと人との連携・運用体制(ガバナンス・監査・継続改善)まで、現場運用に即した仕組みを構築することが重要とされています。アルティウスリンクは、BPO運用の知見を持つ自社と、PKSHAのAI技術を掛け合わせ、「実装可能なAI×人の協調オペレーション」を共同で提供する体制を整えています。

この共同ソリューションは、まずはITヘルプデスクや金融機関のバックオフィス業務等、対応件数が多く、かつ専門知識・判断力が求められる領域から展開される予定です。難易度・応答要件の高い問い合わせに備えつつ、AIエージェントを活用して業務プロセスの高度化・自動化を実現します。

また、同社のサービスブランドである「Altius ONE®」を通じて、顧客接点(カスタマージャーニー)からバックオフィスまでを含めたバリューチェーン全体を最適化するというビジョンも明らかにしています。AIエージェントの導入はこのブランド機能強化の一環として位置づけられており、より多様な業務課題に対してソリューションを広げる意図がうかがえます。

このように、アルティウスリンクはこれまで主に「コールセンター・インバウンド応対」の領域で培ってきた運営ノウハウを、今後はバックオフィス領域・AIエージェント-driven BPOへと拡張しています。コールセンター業務だけでなく、社内ITヘルプデスク、経理・人事対応など、多様な問合せ接点からAIと人の共働による自動化・効率化を進める姿勢が明確です。

各社の共通トレンドと差異

取り組みを比較すると、いずれも「AIと人の共存」を前提にしている点は共通しています。ただし、そのアプローチには明確な違いがあります。

トゥモロー・ネットは、チャット・音声といった複数チャネルの統合を重視し、より自然な顧客体験を設計しています。ベルシステム24は品質管理と自動化率の両立を狙い、生成AIの精度向上と根拠提示の仕組みを構築しました。アルティウスリンクはROIを最重視し、現場に無理のない範囲からAIを導入する実践的なモデルを展開しています。そしてマスターピース・グループは、複数AIエージェントによる分業という新たな方向性を打ち出し、人とAIが並列で働く未来を見据えています。

共通しているのは、「AIで人を置き換える」のではなく、「AIで人の仕事を再定義する」という発想です。AIが業務の一部を担い、人がより創造的・戦略的な役割にシフトする。AI-BPOの普及は、コールセンター業務の効率化だけでなく、働き方そのものを変えていく可能性を秘めています。

導入検討時のポイント

AI-BPOを導入する際に最も重要なのは、「どの範囲をAIに任せ、どの範囲を人が担うか」を明確にすることです。AIが万能に見えても、顧客との会話には微妙なニュアンスや感情の揺らぎが存在します。たとえば「不満を含んだ問い合わせ」や「謝罪を伴う案内」などは、いまだ人の判断が求められる領域です。導入時は、業務全体を分析し、AIが担える範囲を段階的に拡大していくことが現実的です。

また、生成AIの利用範囲を設計段階で明確にしておくことも欠かせません。FAQやスクリプトの自動生成に使うのか、実際の応対まで任せるのか。それによってセキュリティ要件や検証工数も大きく変わります。特に顧客情報を扱うコールセンターでは、学習データの扱い方やクラウド環境の管理が厳格である必要があります。企業によっては、オンプレミス環境で生成AIを運用するケースも増えています。

さらに、既存システムとの連携性も見逃せません。CRMやPBX、チャットプラットフォームなど、すでに社内で使っているシステムとスムーズに連携できるかどうかが、実装コストと運用負荷を左右します。多くのAI-BPOではAPI連携が可能ですが、運用開始後のデータ整合性や障害対応までを見越して設計することが望まれます。

最後に、導入後の“育て方”も重要です。AI-BPOは一度導入して終わりではなく、ログ分析やフィードバックを通じてチューニングを続けることが性能維持の鍵となります。初期段階では、目標KPIを明確に設定し、AI応答率や一次完結率、平均処理時間などを継続的にモニタリングする体制を整えることで、効果を着実に高めることができます。

海外動向と日本企業の今後

海外に目を向けると、AI-BPOはすでに新たな産業インフラとして定着しつつあります。世界最大手のBPO企業であるテレパフォーマンスは、AIをオペレーションの中心に据えた「TP.ai」戦略を展開し、AIが定型的な問い合わせを処理し、人が感情や創造的判断を担うハイブリッド運用を確立しました。AIが人間のアクセントを補正して聞き取りやすくする「アクセントニュートラライゼーション技術」など、現場レベルでのイノベーションも進んでいます。

また、米国のスタートアップ「Vapi」は、生成AIによる音声エージェントで注目を集めています。同社のAIは自然なイントネーションで会話を続けることができ、顧客の多くが「AIと話していると気づかない」と評価しています。AIが24時間休みなく応対し、人間の夜間シフトを不要にするという事例も登場しています。こうした動きは、AI-BPOが単なる省人化手段ではなく、サービス体験そのものを再設計する段階に入ったことを示しています。

一方、日本企業の多くは、慎重に品質と安全性を両立させながら進化を続けています。ベルシステム24のように根拠提示型の生成AIを導入する企業や、トゥモロー・ネットのようにボイスとチャットを一体化して運用データを学習させる企業など、各社が「AI×人の協働」を自社の強みに変えようとしています。日本企業が持つきめ細やかな応対文化とAI技術が融合すれば、グローバル市場でも独自のCXモデルを築ける可能性があります。

まとめ

AI-BPOは、単なる業務自動化の延長ではありません。AIを取り入れることで、業務プロセスそのものを再設計し、人がより付加価値の高い仕事に集中できる環境を整えることができます。AIが一次対応を担い、人が判断や感情を扱う――この分業構造は、コールセンターの生産性を向上させるだけでなく、顧客体験を新しい次元へと引き上げています。

今回紹介した5社は、それぞれ異なるアプローチでAI-BPOを実現しています。トランスコスモスやトゥモロー・ネットはチャネル統合と体験設計に強みを持ち、アルティウスリンクは現場密着型の安定運用で成果を上げています。ベルシステム24は品質保証を前提とした自動化モデルを打ち出し、マスターピース・グループはAIエージェント分業による効率化を進めています。共通しているのは、AIを“人の代替”ではなく“共働者”として位置づけている点です。

AI-BPOの導入は、もはや先進企業だけの取り組みではありません。コスト構造の見直し、顧客体験の再構築、そして人材の新しい働き方を実現するための基盤として、すべての企業が検討すべきテーマとなりつつあります。AIと人の協働が当たり前になる時代、どのようにAIを活かすかが、これからのコールセンター運営の競争力を左右する鍵となるでしょう。

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Writer編集者情報

  • コネナビ編集部 平井 美穂

    2012年、株式会社セントメディア(現:株式会社ウィルオブ・ワーク)へ入社。
    コールセンターとオフィスワーク領域に特化した人材サービスに従事し、カスタマーサポートをはじめ、営業やキャリアアドバイザーなど幅広い職務を経験。
    現場で培ったCS対応力と人材支援の知見を軸に、採用や運営における課題解決を支援。
    2022年からは、コンタクトセンター業界の情報サイト「コネナビ」編集部の責任者として、業界の課題に寄り添う情報発信を推進。
    企業向けメディア「コネナビ」と求職者向けメディア「コネワク」を通じて、ユーザーの課題解決と業界の成長に貢献することを目指している。

    趣味: 森林浴、神社巡り、アートに触れること
    特技: 細かい点に気づくこと

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